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[コメント] ダイアリー・オブ・ザ・デッド(2007/米)

ミイラ撮りがミイラになるな。
たわば

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ロメロのゾンビ映画は、ゾンビという人肉を食いたいという欲望だけで生きている亡者と、それに相対する人間を対比して描く事で、両者にどんな違いがあるのか?という問いかけを常に突きつけてくる。シリーズで度々登場する「ゾンビとは我々自身」というセリフでわかるように、ゾンビという存在を我々自身を映す合わせ鏡として意味を持たせている点がロメロ映画の一番の特徴と言えるだろう。そんなロメロが今回選んだテーマは、ゾンビの発生という非常事態に遭遇し、それを記録する使命感にとりつかれる人々である。秋葉原の殺傷事件に遭遇した人が思わず携帯で撮影してしまう…そんな時代を反映したタイムリーなテーマであり、ロメロ監督の着眼点の鋭さに驚かされる。

そもそも報道における使命感というのはいかに真実を伝えるかということである。この映画の登場人物はホラー映画を作っていたが、ゾンビに襲われるという事件を目の当たりにして報道する使命感に目覚める。だがホラー映画を撮るのと、実際の事件のショッキングな映像を撮るのといったい何が違うのか?とロメロは問いかける。なにしろ冒頭のホラー映画撮影と、使命感で撮っているはずの映像がほとんど一緒なのだ。「おまえら、なんだかんだ言ってやってることが同じじゃねーのか!」という皮肉。報道への使命感も、一歩間違えば刺激のある映像を追い求めるだけの欲望に変わってしまうのだ。

我々は何か事件が起きるとその映像を求めてしまう。それは好奇心もあるだろうが、本来は真実を知りたいという使命感とも言えるだろう。だが刺激的な映像が見つかると、その使命感も忘れてもっとすごい映像を望んだりはしないだろうか。それはすでに使命感ではなく欲望でしかない。また事件に限らずとも、我々は常に己の欲望を満たすために、より刺激的な映像を求めてネット上を徘徊してはいないだろうか。まるでゾンビが人肉を求めて徘徊するように…。やがてこの映画はなんのカタルシスもないまま生き残った人々が退場し、ショッキングな映像を見せて幕を閉じる。まるで「ほら、君たちが見たいのはこういう映像なんだろ?」と言わんばかりに挑戦的に。

この映画をゾンビ映画として見れば正直物足りなかった。クライマックスまでのロードムービー的展開がロメロ的には新鮮で面白く「これ傑作じゃね?」と思っていただけに、クライマックスがないと言ってもいいくらいのショボさにがっかりしたからだ。しかしこの映画の売りはテーマであり、メッセージ性である。どちらかといえばサンダンス映画祭あたりで上映してもおかしくない作品なのだ。ゾンビが我々自身であるように、ロメロのゾンビ映画そのものも我々の生きている時代を映す合わせ鏡のような存在であり、観る者の心に何かを訴えかけるのだ。この爽快感のまったくない閉じた物語も、現代の閉塞的な世の中そのものを映す鏡と考えれば必然であり、そこにこの映画の存在意義があるのだ。もちろん一般ウケはしないだろうが…。

そしてPOVという手法も単なる見せ方の一つとしてではなく、POVで撮られた映像がメタファーとして作品のテーマと結びついている点も見逃せない。POVのカメラが対象物を探して徘徊し、いざ獲物を見つけると一目散に突進し食らいつく…それはまさにゾンビの視線そのものではないだろうか。POVの視点がゾンビの視点と被ることで、POVによる報道映像のモラルを問いかけているのだ。POVという主観に基づく映像に自分の姿は映らない。つまり、人はカメラを持つと自分自身が見えなくなるのだ。自分を客観的に見れない状態、それはすなわち自分を見失っている状態とも言え、そんな時に人は暴走してしまうのではないだろうか。我々に求められるのは自制心であり、どんな状況でも自分を見失うなとこの映画は訴えかける。POVという手法を単なる流行で取り入れたのではなく、POVでなければできない必然性のある表現方法として意味を持たせている点にロメロ監督の映像作家としてのこだわりを強く感じた。

最後にこの映画で生き残った人々が閉じこもるモニター室は、『ゾンビ』のオープニングのテレビ局のモニター室と対になっており、時代も場所も違うがゾンビ発生後の時系列的には繋がっているという芸の細かさ。続けて見ると続編のような感覚で楽しめるのでオススメです。(2008.11.27)

(評価:★4)

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