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[コメント] パシフィック・リム:アップライジング(2018/米)

本作は『パシフィック・リム』の単純なる続編ではないとみた。未来に向けて敢えてオタク男子を切り捨てた堂々たるリブートなのだ。系統進化を繰り返し個体発生に至ったこの映画に、もはや男子への忖度はない。
ロープブレーク

19世紀のドイツの生物学者エルンスト・ヘッケルは、「個体発生は系統発生を繰り返す」という反復説を提唱した。個体発生とは人間でいうところ出産のことで、系統発生とは魚類→両生類→爬虫類→哺乳類の進化の過程を指す。受精から胎児まで、母親の胎内ではまるで進化の過程をなぞるようにヒトは成長し、人間の形態になったところで出産に至るというこの説は、近代の学問では懐疑的なものとされてきたものの1980年代になって遺伝学上の発見から再評価の動きがあるそうだ。

この作品『パシフィック・リム:アップライジング』は、『パシフィック・リム』の続編であるよりは、『ゴーストバスターズ』(2016)、『パワーレンジャー』(2017)のような最近のハリウッド特撮の挑戦である女子向けリブートの系譜にあるように思える。

シン・ゴジラ』を例外として、昨今の日本の特撮映画はTV番組と連動せずには存在しえない絶滅危惧種になってしまった。TVの特撮ものも、ライダーと戦隊とウルトラマンという伝統芸能化したシリーズの他は、『トクサツガガガ』のような突然変異体がたまに現れるだけという、アニメの興隆の遥か後塵を拝している状況にある。

ジェンダーとの関係で言えば、アニメは男子向けと女子向けの双方に様々な作品が作られているが、日本の特撮は女子を取り込むのにイケメン俳優を起用するなど女子の女子性をあてにしたマーケティングに終始していた。

ところが、米国産特撮映画は、『ゴーストバスターズ』(2016)での大バッシングのあとも挑戦を続け、『パワーレンジャー』(2017)では恋愛シーンが無くても物語をつくれることを実証し(本作ではイエローにLGBTを配することによってボディースーツによる女性体形の強調から女性性を抜くという実験もやっている)、ついに『パシフィック・リム:アップライジング』では、過去の特撮諸作品をオマージュではなく特撮初心者たる女子への啓蒙的な意味合いから系統進化として本作につなげるという離れ業をやってのけたのだ(と勝手に思っている)。

しかも、この系統進化は『パシフィック・リム』の設定を活かし、特撮とロボットアニメの統合だ。特撮史とロボットアニメ史とを共に継承し、玉座に着いたのが特撮だとは泣かせるではないか。

男子が特撮を敬遠し、美少女アニメに現実逃避しして性的妄想を消費している間に、女子に特撮を開眼させるべくハリウッドから黒船(=KAIJU)が襲来したのだ!

特撮ファンの私は、息子と特撮を見るのが結婚以来の夢だったが、ついに我が息子は特撮に興味を示さずに高校生になってしまった。今、お父ちゃんと一緒に特撮にくぎ付けになっているのは小学生の娘である。ライダーにも戦隊にもウルトラマンにもマーベルにも興味を示さなかったが、『ゴーストバスターズ』(2016)が変えた。そして、『パシフィック・リム:アップライジング』を主人公(アマーラ・ナマーニ)になりきって、腕を思い切り前後に振って大興奮してみている。

女子よ、特撮にアップライジング(蜂起)せよ。この太平洋の向こうからの熱いメッセージに我が家は呼応した。日本中が呼応してほしい。子供たちがくらいついてこなければ、ジャンルとしての特撮は終わる。男子には期待できない。日本の特撮ファンなんて、もう私のような中年以降のおっさんばっかりなんだから。

追.特撮とアニメの融合と言えば日本では『SSSS.GRIDMAN』なんだよな。特撮史を経て今、玉座に座っているのは美少女アニメなのだ。

(評価:★5)

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