徹頭徹尾アフロアメリカンのアフロアメリカンによるアフロアメリカンのための映画なのだと鑑賞前から覚悟はしていたが、鑑賞後にその思いをいっそう強くした。

この映画を心底味わいつくすには、ブラックパンサーとかマルコムXとか最低限のアフロアメリカンの歴史やカルチャーの知識が必要だと思うんだ。だから本作評について町山智浩氏も菊地成孔氏もその線で語ったり書いたりしている。プロの映画評としては当然だよね。

でも、アフロアメリカンの文化や歴史は、山川の歴史教科書には出てこない。今の版ならちょこっとは書かれているかもしれないが、それでも本作に十分な情報量はないはずだ。それに学生全員が世界史を選択しているわけでもない。友達にアフロアメリカンがいなければ、そういった知識はスルーで今まで生きて来ちゃっている人も多いと思う。現に私もそのうちの一人だ。

オバマが大統領になったときに、反省しとけよって話なんだが、ジャズもR&Bも作品を完成品として消費してきちゃって、それを生み出した背景には、リスペクトはあっても知識として取り込んではこなかった。まあ、これは、アフロアメリカンをアジアンに入れ替えても同じような状況なのだと思う。ニンジャバットマンを喜んでるアフロアメリカンだってそんなもんだよね大半はきっと。

で、己の知的怠惰を棚に置いて本作の感想を書くとすれば、フォーマットが新しいなあということ。

これまでのアメリカ映画だと、対立の構図を見せたあと、一方の視点を提示して、鑑賞者の判断を求めるといったフォーマットが多かったように思う。ブライアン・シンガーのX-menシリーズは徹頭徹尾マイノリティの視点で書かれているし、アイアンマンは兵器産業を生業としてきた者の業から離れることはなかった。アベンジャーズインフィニティウォーだってサノスの思想態度は明確だった。

本作がそれら過去作と違うのは、善玉と悪玉とに限らず登場人物の誰もの思想が隙だらけかつブレブレだってこと。誰もに良いところも悪いところもあり、矛盾と成長があり、躊躇がありポカがあり徹底できていない行動がある。

弱者に武器を解法して世界革命を夢見た簒奪王は死に、ブラックパンサーの能力で戦うという掟破りで王座に返り咲いた主人公は基本的な鎖国を続けながら部分的な開国でお茶を濁す。王の恋人は、己の思想より愛を選び濁ったお茶を喜んで飲む。

この誰もが変数な映画って、欧州映画にはたまに見かけるけどハリウッドSF大作では新しいんじゃないかな。

「曖昧なアフロアメリカンな私たち」が、闇鍋みたいに入り乱れて、SFXとアクションと擬似アフリカンなミュージックで包まれた作品が、超絶大ヒットしちゃった。わかんねー。アフロアメリカンはこれを歓迎しちゃうわけ？とアフロアメリカンを何にも知らない俺は思ってしまったのだった。

アフロアメリカンは、単純な構造に置かれていないし、この曖昧な複雑さに耐えられる状況にあるってことなんだろうけど、アフロアメリカンでもない俺が、この映画から何かを得ようとするための道のりは遠いなーと感じてしまったのは事実。やっぱ上っ面じゃないアフロアメリカンの歴史と文化の勉強が必須なんだろうな。

架空とはいえアフリカに存在すると設定されているワガンダを、あまりにアフロアメリカンな世界観でもってその過去と未来とを語るこの映画に違和感バリバリだったけど、ハリウッドのサムライものと同様のノリでツッコんじゃいけない気はする。うん、俺にはその資格はないという自覚はある。だってさ、ハリウッドのサムライ映画は日本で超絶大ヒットしないもんね。その差が理屈の分析じゃなくて身体感覚として腹に落ちないことには資格は無いんだ。