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[コメント] ウルヴァリン:SAMURAI(2013/米)

あの長崎を扱うならば、矢志田、原田、バイパーこの3人をもっと掘り下げて、もっと真摯な映画にしてほしかった。やり過ぎなまでに真剣勝負なSAMURAI映画を見てみたかった。
ロープブレーク

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まず矢志田について。命の恩人であるウルヴァリンに対し、死をギフトして恩に報いようとする難しい役どころ。この不可解な行動には、3つの要素があると思うのです。

1.純粋に不死を不憫に思った。米国人から見て、SAMURAIとハラキリとカミカゼはセットでしょ。SAMURAIは潔く死ぬことに至高性を感じる存在だと米国人は思っているはず。だから日本兵=SAMURAI にとってウルヴァリンに死を与えることは、相手に対して最高のプレゼントになるはず。これはセリフにも書かれていた、けど、役者がそこまで掘り下げてないので伝わらないで流れちゃいました。

2.欲に眩んだ。死ぬべきときに死ねなかった日本兵は、そのことによってSAMURAIではなくなり、エコノミックアニマルとして余生を送り、矢志田産業をどでかくしちゃいました。人としてつらく哀れですね。でもこういう戦後のやみくもな日本経済の発展の裏にある日本人のつらさ哀れさなんてものも感じられなかったですね。どうでもいいですけど「矢志田」って「香具師だ」ってことですよね?

3.狂った。戦争が長崎原爆が敗戦が一人の男を狂わせた。十分ありうると思います。ゆきゆきて神軍。

で、こういう(私の勝手な仮説ですけど)掘り下げがなされていないので、老矢志田が単なる危険なバカ爺さんに造形されちゃってる。日本生まれイタリア人のハル・ヤマノウチさん頑張れーってところですが、もっと狂気をはらんだあぶない人が演じたらどうだったんだろうと思うわけです。ビートたけしとか田中泯とかイッセイ尾形とか美輪明宏とかとか。日本刀がキーの人物なんだから映画も真剣勝負ですよ。

それから、原田。これは日本で代々主君に仕えてきた愚直な影の男なんだから、日本語ネイティブの俳優じゃなきゃだめです。黒沢明は大道具や小道具をカメラに写らないところにまで作り込んだそうですが、日本語がわからない人がほとんどな世界の観客を相手にした映画だからってきちんと日本語を使える役者を使わなきゃダメです。瑛太とかいいんじゃない?

あと、バイパーね。せっかくの一人ミュータントなんだから大物女優を用意して欲しかったところ。映画仮面ライダーの女性怪人役とはわけがちがうのよというところを見せて欲しかった。

あとはそんなに不満はないです。TAOの英語は日本人英語でもアメリカ英語でも女性イギリスコケティッシュ英語でもなく世界観つくってたと思うし、福島リラは米国のアメコミファンには受けがよさそう。真田広之は、陰陽師の野村萬斎以来の好敵手を迎えたってところでしょうか。

あの長崎を扱うならば、矢志田、原田、バイパーこの3人をもっと掘り下げて、もっと真摯な映画にしてほしかった。とはいえ、それでもなんとかB級っぽくならずにAダッシュ級くらいの映画になっているところはさすがハリウッド映画です。ですがそれゆえにやり過ぎなまでに真剣勝負なSAMURAI映画を見てみたかったです。

(評価:★3)

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