あまり欲張らず、シンプルにまとめた佳作。

どうやってもクライマックスはハドソン川に不時着水するシーンなだけに、それをどう見せるかはまさに監督の技量にかかっている。それを見事にしてのけたイーストウッドは映画職人と言ってもいいのではないか。

本作はトム・ハンクスがビルに衝突する夢から覚めるシーンで始まる。てっきり、不時着水のフライトの朝のシーンで、予知夢みたいな始まりかと思ったら、すでに不時着水は終わっていた。

ちょっと肩透かしを食らったような気もするが、そこから機長の判断の妥当性が問われる緊迫したシーンに一気につながっていき映画の中に引きこまれる。

そして不時着水のシーンは、中盤に客室内など全体的なシーンと、終盤にコクピット内だけのシーンと繰り返されるが、この見せ方も上手い。単なる繰り返しではなく、特に終盤では思わぬ事故に直面しながら必死で安全を図ろうと最善の努力を尽くす姿には素直に感動する。

そして本作で最も心をうたれたのは、不時着水後、病院かどこかでトム・ハンクスが１５５人の乗員・乗客全員が無事であったことを知らされたシーンだった。事故からそれまでの、心と体の緊張がすーっととけて心底、安堵したように見えて、機長の誠実で責任感のある人柄が感じられた。そういう演技を見せたトム・ハンクスは大したものだと思う。