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[コメント] 9〈ナイン〉 9番目の奇妙な人形(2009/米)

本当は絶望的で暗い話を、それと感じさせずに明るく希望があるように思わせる。その意味ではSFファンタジーの傑作と言える。ともかく9体の人形の造形と描き分けが秀逸。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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回想シーンを除けば生きたままの人間は登場しないドラマ。恐らく生身の人間はすべて滅んだ後の世界の話なのだろう。

最後は、心をもたない殺人機械と化した「マシン」を破壊し、仲間たちの魂を解放し昇天させ、9と7の擬似カップルに3と4の双子の子どもを残してあたかも一つの家族が生き残って「この世界を守るんだ」という台詞で締めくくって、一筋の希望があるかのようなラストになっている。

しかし、よくよく考えれば、不老不死かもしれないが生殖機能のない人形のカップルが生き残っていても、あの人形たちの数が増えることはけしてないのだ。だから「守る」といった世界はすでに廃墟となった世界のことでありその世界を一体どうしていくというのだろうか。

途中、思わせぶりにのどかな田園の風景画のシーンがあったが、その風景を再生しようというのかもしれないが、わずか4体の人形だけでできるとはちょっと思えない。

さらに不老不死なのかという点も怪しい。人形だから「不老」かもしれないが、博士から分け与えられた生命エネルギーが永遠に続くとはとても思えない。だいたい、その博士から与えられた生命エネルギーに限りがありそれが切れかかっていたからこそ、「マシン」本体は当初は動かず機械獣をはなっていたのだろうし、「生命エネルギー変換装置」を手に入れた後も執拗に人形を追いかけてその生命エネルギーを奪い取ったのは、そうしなければやがてはエネルギーが尽きてしまうということではないのか。

だから、この物語そのものが、人間が滅んでもうどうしようもなくなった世界の、最後の最後のエピローグであり、しかもその後には最終的な滅亡しかないのだろう。

そういう、実に人間にとっては暗い物語で、これは考えようによっては相当、寓意が込められ、人類社会に警鐘を鳴らす映画だと見ることもできるだろう。戦争好きの独裁者とその言いなりに科学的成果を発明、提供する科学者は、いずれ人類を滅ぼしてしまう、というメッセージだととらえることも可能だろう。

でも本作の魅力は、そんなところではない。じっと考えればけっこう無理のあるストーリーでもある。しかしそんなことを気にさせない、文字通り、創られた9体の人形たちの個々の造形、キャラクター、そしてそれを際立たせる世界の風景、などなどにこそなんとも言えない味わいと魅力があるし、それこそを堪能するための映画なのだろう。

(評価:★5)

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