[コメント] バンテージ・ポイント(2008/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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内容としては、実はせいぜい30分くらいの出来事で、最初は広場の大群衆の目前で大統領が狙撃されて、その直後に広場の外で小規模と思われる爆発が起き、続いて広場の演台が爆破されて多数の死傷者が出る、という事件が起きる。
それがどういう事件だったのか、時間軸を繰り返すことによって少しづつ観客に、どういうことが起きているのか、種を明かしていくという方法。
本当に群集の目前でVIPが狙撃されて続いて爆破が起きれば、観衆はただもう何もわからず逃げまどうくらいしかできないだろうし、そういう意味では、一番目のテレビクルーから見た出来事というのが、いわば普通、まるっきり外からの傍観者が見たすべてなのだろう。
後は警護者、群集の中の一人、犯人に利用された者、狙われた者、襲撃実行者、犯行の全てを計画した者、それぞれから見た出来事を順番にもってきて全体像をはっきりと示す。
つまりただの観客からはじまって、計画を阻止すべき者、たまたま巻き込まれた者、意図的に巻き込まれた者、被害者、計画実行の一員、計画全体の統率者と、一段階ずつ、より詳しく知り得る=有利な・バンテージな、立場から見た出来事へと、描き方、見せ方を上手に変えていっている。
この点では、「目撃者が8人」とか「彼らが見たものはくい違っていた」なんていうキャッチコピーは的外れだし、「隠された真実」なんていうのも見当違いの文句じゃないだろうか。
あくまで短時間内の出来事だから犯人の背景とかは端折らざるを得ないが、それを上手にこなしてぼろを出さないようにまとめ上げており、相当よく練られた脚本だと思うが、さすがに繰り返しも4,5回になると最後の方はいささかくどくてしつこい感じがして、「またかいな」と飽きがくる。
そういうタイミングで一気にカーチェイスに引っ張りこまれたから、なんか反則だなあという気がしないでもないが、ものすごいカーチェイスの迫力で、飽きたとか何とかこの際どうでもいい、とまで思わせるだけの力があった。これだけでも十分楽しめる映画だ。
ただ、全体を通しても群衆の中でビデオで撮っていた男フォレスト・ウィッテカーなんかは、最後に鍵となる華奢な少女を「ガード下」近辺へ持ってくるためだけみたいな存在で、いなくてもいいんじゃないか、という気もする。
また、純粋なアクション映画として存分に楽しめるのだが、劇中でのテロとの戦いとアメリカの振る舞いには興味深い点もあった。
大統領が側近から大統領(の替え玉)への狙撃の報復として他国にあるテロ組織の拠点への軍事攻撃を拒否するあたりなどは、昨今、アメリカが9・11への報復としてアフガニスタンへ戦争を仕掛けたことや、それを拡大解釈してイラク戦争へ突き進んだことへの反省が反映しているのかなあなんて思ったりするし、その一方でスペインというアメリカにとっても外国が舞台であるにもかかわらず、アメリカのシークレットサービスが現地警察に対してさえも我が物顔で振舞っているのを見ると、アメリカの映画にはアメリカ以外の国の主権という概念はないのかなあ、なんてことも思わせられて、そういう意味でも面白い映画であった。
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