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[コメント] ナイロビの蜂(2005/独=英)

《不要な大陸・アフリカ》という正視に耐えない現実を突きつける、第一級の社会派サスペンス。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







特にスーダンでロービア医師ピート・ポスルスウェイトを訪ねたシーンは象徴的だった。先進国の製薬会社が節税対策で期限切れの薬を医療援助組織に無償提供するが、現地の猛暑のために運ばれてきた時にはすでに使い物にならなくて焼却処分にまわされる、まさに不要な薬は不要な人間へ。そして他部族の襲撃に逃げまどう目の前の子どもを救うことさえできない。

そういう現実のもとで行われていた「治験」=新薬開発のための人体実験の不正を暴こうとした女性は、製薬会社やそこと治験の契約をした会社、製薬会社によって国益をうけた政府、のもたれあった関係の中で、誰もが「殺されるとは思わなかった」という一つ一つの積み重ねの中であえない最期を遂げたあげくに、その凄惨な亡骸は直視されることができなかった。まるで彼女までもが「不要だ」と、よってたかって言われているようではないか。

この無残な現実を鋭く告発した社会派サスペンスであるがゆえに、劇中にあるアフリカの雄大な風景がかえって心に突き刺さる。

また細かい点だが、非合法なパスポートを手に入れた夫が飛行機に乗るなと言われて、英仏トンネルを利用してドイツやフランスに渡るが、なるほど、確かに現代では、ロンドンからケニアまで、陸続きで行けるのかと感心させられたし、ドイツをはじめ、夫に迫ってくるなんともいえない不気味な影のような圧迫感の描き方はなかなか秀逸であった。

(評価:★5)

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