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[コメント] 蝉しぐれ(2005/日)

美しい風景と丁寧で本格的な美術・小道具などは、何人かの場違いな役者を十分フォローし、本来なら時代劇としての格をあげるものなのだが、ドラマがあまりにお粗末すぎて一本の映画としての完成度を大きく損なっている。なんとももったいない。
シーチキン

ともかくストーリー展開が平板で、せっかくの美しい映像も細切れのような印象しかなく、一本の映画を見た、と満足させるものがない。もともとは一冊の文庫本になっている長編小説が原作で、それを2時間の映画にまとめようとすれば、本来のストーリーのどこかを端折らなくてはならない。それが非常にまずくて、いいとこ取りでまとめようという安易なやり方で、登場人物の描き方が実に薄っぺらくて、空々しい。

この弱点の最たるものが、殺陣の扱いである。市川染五郎の立ち居振る舞いはさすがに様になっており、きまっている。殺陣だけ取り出せばけしてまずいものではない。敢えて言えば、一対多数の殺陣、いわゆる大立ち回りと、一対一でやる殺陣の区別がついてなくて、市川染五郎が大勢を相手にしていた時の殺陣は一対一でやる時の殺陣そのままで、かえってうそ臭さが漂っていた。

しかし問題はそんなところではなく、この映画のドラマとしての組み立てから見れば、この殺陣はなくてもよかったのだ。殺陣は確かに時代劇の華であるし、個人的には「殺陣のない時代劇なんて」とは思っても、殺陣がなくても優れた時代劇は多い。ところがこの映画は、時代劇として、客に媚びるために殺陣を入れているとしか思えない。

せっかくの美しい映像も、殺陣も、一本の映画を構成するためのものではなくて、なんだか、宣伝で使うためのもののようにされている。極論すれば、この映画のすべて、魅力は予告編で出尽くしている。予告編・CMで観客の目を引くためのシーンをつくって、後はそのシーンをともかく入れるための映画にした、と言ったら言い過ぎだろうか。

ワンシーン、ワンカットとしては完成度が高くても、それらを一本の映画としてまとめあげるドラマがめろめろだから、美しい風景を見たとは思えても、いい映画を見たなあとは思えない。かえすがえすももったいない映画である。

(評価:★2)

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