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[コメント] 潜水服は蝶の夢を見る(2007/仏=米)

左目しか動かないジャン=ドーの視点を主観アングルで再現しようと試みたため、上映時間の半分以上(だと思う)はカメラの動きが制限された映像を見ることになる。それなのに、ジャンの孤独、周囲の人々の愛や苦痛がしっかり伝わってくるよう演出されている。
JKF

カメラは、ジャンの左の眼球が動くようにしか動かない。ジャンはまばたきをするし、目の焦点が常に定まっているわけではないし、感情のままに目をそむけようともするので、カメラもその通りに動く。こうしてジャン=ドーの見たものを観客に疑似体験させる。自分の目の前にいる相手に自由に意思を伝えることもできなければ、目の前にいる自分の子供にもフェロモン出しまくりの美女にも自らの腕で触れることすらできない。こうしてたまるフラストレーションを誰かに、或いは何かにぶつけることすらできず、どれほどの絶望と孤独を彼は感じてきたのだろうか。これはもはや、当事者にならなければわからないほどに辛い体験だろう。タイトルの通り、蝶となって自由に飛び回る夢を見ようとするジャンの前向きさが映画の中では救いとなった。にしても、まばたきだけで自伝を書くなんて、ほんとすごいとしか言いようがない。

また、画面に映るものが圧倒的に制限されているというのに、ジャン=ドーの視点を通して映る家族や恋人、言語療法士たちの姿もしっかり描かれている。ジャンの目を見つめながらアルファベットを何度も唱えることの苦痛、その苦痛を乗り越えジャンを支えようとする愛が、彼女たちの表情を通じて伝わってきた。観る前の印象ではジャンを演じるマチュー・アマルリックの独壇場なのかと思っていたのだけれど、女優陣の演技なくしてこの作品は成立することはなかった。

最近では物理法則すら無視して画面がビュンビュン動きまわる映画もある中で、非常に新鮮な映画体験だった。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)りかちゅ[*]

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