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[コメント] 28週後...(2007/英=スペイン)

いろいろ賛否はありそうだけど、この手の映画の1つの到達点だと言っても過言ではないだろう。
JKF

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







手持ちカメラで混乱の地獄絵図をドキュメンタリー風というか、一人称的に撮ったのは正解だったと思う。観客でさえもどこで何が起こっているのかよくわからない。しかしそれは「奴らに襲われている」ということ以外、誰が感染者なのかということ、どこへ逃げればよいのかいうことさえ分からず、目の前の惨劇に悲鳴を上げながら安全な場所を探し求める民間人の視点である。そして観客も否応なしにその地獄絵図の中に投げ出される。逃げ惑う人々を背中から追うショットもまた秀逸で、あくまで必死に逃げている一人の視点としてカメラが大きく揺れているのか、それとももしかすると恐ろしい形相で標的を追いかける感染者の視点なのかわからず、ひたすらに居心地の悪さを感じる。

このカオスは感染者に襲われているという特異な状況を除けばまさに戦争そのもの。時折挿入される狙撃手の視点からのショットがその印象を高めている。軍の行動は「民間人を救うため」ではなく「被害を拡散させないための掃討」。こうした軍事行動を脱力系オチとして使用した映画もあったが、真正面から描いたときに感じる軍の存在に対する疑問と矛盾は、今の現実そのものである。国民が犠牲になろうと国家さえ守れればそれでいいんだと言わんばかりだ。アメリカ映画で描かれた戦争を逆の立場、つまりベトナムやイラクの民間人の立場から捉えてみれば、こういうことなのだろうな、と思う。

さてさて『ボーン・アルティメタム』を観たときにも思ったけど、今後は先に挙げたような擬似ドキュメンタリー的ともいうべき手持ちカメラと早いカット割りによる臨場感の演出が、アクションを撮影するときの主流となっていくのだろうか。スペクタクルとしてのアクションが現代において完成してしまったがゆえ、「どう見せるか」ということに腐心する製作者の苦労を感じる。

子供を軸にしたことで、後半がサバイバル・アクションに終始してしまったのは残念だけど、これは「家族」の描写をありがちな方向で片づけなかったことで打ち消されたし、何よりラストにやられた。普通だったらロバート・カーライルキャサリン・マコーマックが和解したところでドラマが完結するところだけど、このお二人さんのキスのせいでウイルスが拡散する。さらに、姉が弟を想うがあまり、弟の感染を見逃したことが、ラストへとつながる。

とりあえず今度は前作のように、DVDに「もう1つのエンディング」をつけるようなことはなしにしてほしい。あと、UKロック風の音楽も個人的にはツボ。

これをただのゾンビ映画として片づけるのはあまりにもったいない。願わくば『28ヶ月後』も作ってほしい。

(評価:★4)

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