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[コメント] モーターサイクル・ダイアリーズ(2004/米=独=英=アルゼンチン)

何のための旅か
JKF

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







知らない土地への大きな旅の一歩を踏み出す瞬間というのは、不安よりも「この先の旅路に何が待っているんだろうか」っていう期待の方が遥かに大きく、そこには常にある種の高揚感が付きまとう。『モーターサイクル・ダイアリーズ』もそんなロードムービーの典型みたいなオープニングで、旅がしたくても日々の生活に縛られ、そこでそこそこ満足しちゃってる俺みたいなのは、主人公たちを羨ましく思いながら一人で気持ちが高ぶるのを感じているわけである。

が、映画が半分も行かないうちにタイトルになっているはずのモーターサイクルは退場し、物語は後にゲバラの人生を変えるきっかけとなる出来事に観客を連れていく。俺が予想していたよりもシリアスな方向へ話が進み、俺は何となくどうしてゲバラがゲバラであったのかということを分かった気がした。いや、実際ゲバラのことなんて語れるほどの知識何一つ持ち合わせてませんが。

「知らない場所へ、長旅をしてみたい」たまにそんなことを考える俺が望んでいたのは結局のところ漠然とした旅であり、さしたる目的のないもの。所詮は小さな「自分探し」みたいなもんだ。ゲバラ達だってそりゃ、行ったことのない土地に行くわけだから最初は漠然としたものを感じていただろう。だがガエル・ガルシア・ベルナルによって語られるゲバラの眼差しは自分のための何かを求める数多の旅人と違い、どんな苦境に立たされようとも常にその土地とそこにいる人々を見つめ、その先の何かを見据えていた。旅に出た時点で内に秘めた志がどっか違ったんだろうな、と思う。

それと、「医学生」という万国共通、どこへ行っても「ボクって医者なんだよねぇ」というだけで人々に許されてしまう身分の価値を捨ててまで何かをやろうとする覚悟を得るというのは、自分の心を動かすよほど大きなもの。6000キロ、決して距離の問題じゃないけど、そんな大きな旅を大きな志をもって行ったからこそ、得られたものじゃないだろうか。また、それを成し遂げようとする気力というのはやはり生半可なものではない。例え大した目的を持たぬ旅人であったとしても、「男の意地」と「女の誘惑」でそこそこは持ちこたえられると思いはするけどさ。

映画自体の出来の良さ(ロケ地もキレイで脚本も演技もなかなか)に感心すると同時に、一廉の人物になる奴はやっぱどっか違う。そんなことを感じ、己の平凡さに悔しさを感じた二時間だった。

(評価:★4)

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