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[コメント] アクト・オブ・キリング(2012/デンマーク=インドネシア=ノルウェー=英)

この事件を描いた意義は勿論認めるけど、大胆さばかり目立ち必要な繊細さが不足している。特にリスクを考えると留保したいものがある。
t3b

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この映画を凄く気にしている訳では無かったのだけど、ジム・オルークがインタビューでこの映画に否定的だったのを読んで気になった。パンクバンドに所属している人間は思想が左がかった場合が多い。そういった事を考えるとジムがこの映画を批判するのは引っかかった。

この映画は怨念と怒りを炙り出す。コンゴはジョン・ウェインやアル・パチーノを好み、映画の画面の意味を説明できる。低学歴かもしれないが馬鹿では無い。自身の罪の意識を説明するが、それが判る人間が何故この映画に出たのか?演出が過剰で出演者を必要以上に欺いた点があると感じた箇所が多い。犯罪者自身を使って犯罪を告発する映画を正攻法で撮れない部分はあるだろう。ただ、淡々と描いてもきちんとした告発になる筈だ。この映画で共産主義は脅威で無いと描いているが、大躍進政策は9月30日事件の前に起こっている。東南アジア各国では共産ゲリラと現地政府の戦いもあった。少なくとも共産主義は脅威では無いみたいな描き方はやりすぎだと言っておく。

インドネシアは発展途上国で様々な社会の仕組みが未成熟だ。発展途上国では人の命が安い。発展途上国の舗装無しの道路をトラックの荷台で移動するような事を経験していれば、1965年のインドネシアは共産主義者を殺害した日本の戦前より遅れていた事は想像出来るのではないか。確かに映画を観れば怒りが込み上げてくるが、9月30日事件を批判するのは芝居では無くて理屈や知識の積み重ねであるべきだし、反論権ももっと広範囲で認めるべきだった。それが止揚であり、近代国家でドキュメンタリー映画(劇映画とは違うモラルが必要)を作る人間の役割だろう。インドネシアはアチェで独立運動が起きるといった不穏なところも未だにある国だ(それらを抑えるために殆どの東南アジアの国と同様に強権政治でもある)。宗教の世俗化を拒否する人たちとコンゴみたいな、ならず者の小競り合いも将来起きうるだろう。(リスクで言えば、匿名のインドネシア人スタッフの未来が一番危惧される。)理屈でつめて経済発展していく以外に止揚は無い。共産主義者への補償をすることは必要(これも経済発展しないと不可能)だが、西洋がイスラムを断罪する形の煽り(イスラム教徒には絶対にそう見えるだろう。)はどこかで終わるべきだ。(ちなみに続編の予告編を見る限り情緒が理性をぶっちぎっている状態を続けている)シリアやトルコを見ればもう結論は出ている。

(評価:★3)

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