[コメント] ミスター・ミセス ミス・ロンリー(1980/日)
良いシーンは無数にあるが、私としては、まずは二つのダンスシーンを上げたい。いつの間にか原田美枝子が宇崎の家に居つくようになって直後の、二人でダンスするシーン。宇崎が上半身裸で赤いボータイをして踊る。そして、原田美枝子と宇崎の二人が、原田芳雄の家に身を寄せるようになってからの、原田芳雄と宇崎のダンス。いずれも宇崎竜童がいいのだ。
さて、原田美枝子、22歳での製作・原案・脚本・主演作。ご存じの通り、当時の彼女はほとんどの出演作でヌードを披露しており、本作でも脱ぐ必然など全く無いシーンで脱いでいる。これは製作者としての当然のディシジョンだろう。しかし、本作の彼女の素晴らしさは、何と云っても、そのコロコロと変化する表情の複雑さだ。特に笑顔の演技がたまらない。何を笑っているのかわからないし、ともすれば撮影現場の慣れあいの空気で笑っているのかも、と思わせもするのだが、いや映画の画面として納得性がある、つまり、映画の画面としての面白さが溢れているのだ。勿論、繰り返される、電信柱に後ろ手に手錠で括りつけられている絵面や、後半の青いチャイナドレス姿のビジュアルもたまりません。
また、原田芳雄が大人しい辞書編纂者の役を演じ、ルックスはいつものように白いスーツ等で決めて見せるが、ほゞアクションシーンもなく(殴られるだけのシーンはあるが)、優しい台詞回し。でもやっぱりメッチャカッコいい、というこのキャラ造型の塩梅も、プロデューサー的センスの証明ではなかろうか。
そして、名古屋章ですよ。フィットネスクラブでの拷問シーンにおける草野大悟とのやりとり、最高です。草野に殴らせておいて、やめて!の反復。こういうのって、スクリプトとして事前に用意できないと思うのだがどうだろう。撮影現場で、皆で作っていっているとしか思えないのだ。このシーン、この科白が例として上げやすいのだが、いや全編に亘って、撮影現場での創意が伝わる映画。しかも、ホントウに楽しそうに創造されていることが伝わって来る幸福な映画なのだ。
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