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[コメント] カメラを持った男(1929/露)

本作も第一感ドキュメンタリーというカテゴリーには相応しくない作品だと思う。映画史上に残る所謂「ドキュメンタリー映画」と呼ばれる映画は悉くドキュメンタリーらしくない。それは当たり前と云えば当たり前で、映画は現実を映すものではないのだし、逆に映画には物語などこれっぽっちも必要がない。
ゑぎ

 だから、良い映画は全てフィクションであり、ドキュメンタリー(ノンフィクションでもいいけど)でもあるのだ。というか境い目なんてないのだ。

 さて、本作も映画を作ることの喜びに溢れた映画だ。喜びは欲望と云い換えてもいい。二重露光、画面分割への偏愛。それは現実を異化する欲望だ。乗り物や機械装置への偏愛。或いは男性的欲望の暴露。寝台の女は足や尻や背中しか、まともに映らない。海水浴のシーンは殆ど女性ばかり(ヌードもある)。今見ると少々問題アリと思うが、しかし欲望に忠実な潔さと可愛らしさがある。題材から当然ながら、コテコテのメタ映画なのだが、何か被写体(例えば走る自動車とか)が映り、カットが変わってその被写体を撮影しているカメラを持った男を映す、ということにも異様にこだわる。しかしこれって、2台のカメラで同時撮影していない限り、かなり恣意的な、かつ面倒くさい撮影現場だったはずで、多分に2台カメラのマルチ撮影とは思えないカットが繋がれてもいる訳なので、そういう意味で、労をいとわず実現しようとする強い欲求を感じてしまうわけだ。また、メタ度は終盤に向かってどんどん上がってくる。メタ度の加速の興奮が観客にも伝わる。メタ映画への拘泥は映画というメディアを異化し、その正体を暴いて見せることへのこだわりであり、同時に現実を異化する欲望に他ならない。

(評価:★3)

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