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[コメント] エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(2022/米)

最近、途中でアスペクト比を変える映画があるが、私はほとんど何かの効果を感じない。これもそうだ。基本はビスタ。別の平行宇宙やフラッシュバックの挿入によって、スコープサイズやスタンダードになったりする。
ゑぎ

 全体、常軌を逸した目まぐるしい画面造型を志向しているので、アスペクト比の変更は、その一助にはなっているだろうが、やってもやらなくても大して変わらない趣向と思う。さらに誰が見ても分かることばかり書いて恐縮だが、本当に円形にこだわった映画だと思った。ファーストカットの丸い鏡。ドラム式洗濯機の丸窓、目ん玉シール。カラオケの領収書にぐるぐるマーク、おでこの丸(みんな汚い手書きの丸というのがいい)。そしてベーグル(ベーグルの扱いの大きさは、この映画の茶目っ気を象徴しているように思う)。ラスト近くでは、「人生はサークル(堂々巡り)」というような科白も出て来る(キー・ホイ・クァンの「We are all running around in circles.」)。

 プロットや設定といったところの感想を書くと、最初はルールが分からなくて、どうしたの、どうしたの、と思いながら見る。なんか奇行をすれば、誰の許可か、どういうロジックか不明だが、スイッチを入れることができ、緑のサインが見えると分かっても、いい加減だなぁと思った。ただし、このいい加減さが、この映画の面白さの肝だろう。

 また、導入部では、全宇宙を救う、という壮大なプロットかと思わせられたのに、結局、母娘の和解を中心とした家族の再生話に収束してしまう、というのも、人を食った部分だろう。アメリカ映画らしい、一握りの人間が、世界全体を背負って立っているかのような映画の系譜なのだ。私は、別の切り口で、全宇宙の崩壊に比べると、もとより娘の同性愛なんて大した問題じゃないよな、と思いながら見た。あるいは、メインのロケーションは、コインランドリーの敷地内と国税局のビル内で、国税局を舞台とする場面がこんなに引っ張られるとは思ってもみなかった。他のユニバースの場面もほとんど限定された場所しか出てこないこともあり、舞台設定としても、極めてミニマルな映画だと思う。

 平行宇宙の描写でいいなと思ったのは、第一にミシェル・ヨーの映画スター篇で、キー・ホイ・クァンがまるでトニー・レオンみたいな『花様年華』のパロディシーンだ。この夜の通りでの会話シーンが出て来る度に、嬉しくなった。あと、手指ソーセージ篇は、そのこと自体はつまらないが(2001年パロディも)、ドビュッシーを足で弾くところから、足指を使って闘う展開に繋げる演出は面白かった。それに、白い宮殿のようなセットも良く、この場面も含めて、娘役のステファニー・スーは、衣装・メイクの面白さもあり儲け役だろう。もう一人、ジェイミー・リー・カーティスが、こんな役を嬉々として演じている姿にも感激する。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)緑雨[*] ふかひれ ペンクロフ[*]

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