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[コメント] 肉体の悪魔(1947/仏)

門の鉄格子、窓の飛散防止テープ、網目になったベッド頭部のボードといった、いわゆる、格子状、網目状でマスキングされた画面が何度も出てくるのが特徴で、主人公の二人、ジェラール・フィリップミシュリーヌ・プレールの孤立や断絶の感覚を象徴する。
ゑぎ

 回想の導入と回想開けで、フォーカスインやフォーカスアウトといった今では滅多に使われない技法が活用されていて、よけいに古めかしい感覚も持ってしまうのだが、しかし、全体に画面は端正で尚且つ力がある。また、最初の30分ぐらいで、普通の恋愛映画なら終盤のクライマックスじゃないか、と思えるようなシリアスな状態になる、といった、話の運びの早さもいい。

 美しく力強いカットばかりだが、まず特筆すべきは、大砲(?)の音が轟く中、フィリップが茫然と道を歩く冒頭場面。人々が通りに飛び出してきて、歓声が沸き立つ。第一次大戦の終結を表現するシーンだ。中盤の、ミシュリーヌ・プレールが夜のセーヌ川の桟橋に一人たたずむカットも素晴らしい。川面の光の桟橋への反映。カメラがティルトダウンすると、プレールが川面に映り、波紋で画面がフォーカスアウトする。そして、矢張りラスト近くの、パリのバーのシーンが白眉か。このシーンの途中で、終戦の報が入り、客達によって、ラ・マルセイエーズが唄われる。しかし、終戦は、主人公の二人にとって、決定的な離別を意味している、といった複雑な状況が、密度の濃い演出で表現されるのだ。

#パリのバーのシーン導入カットで、カウンターに置かれた4つのショットグラスを手に持ち、運ぶ将兵がジャック・タチだ。ほぼワンカットのみの出番。バーの表のカットで画面奥に看板が映る。「Harrys New York」。星条旗を持った客がいたわけだ。調べると、現在もパリにある有名なバーのようだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] 3819695[*]

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