[コメント] ノマドランド(2020/米)
冒頭はクリスマスのシーンでもある。フランシス・マクドーマンドは、アマゾンの配送センターへ向かう車の中で「御使いうたいて」(What Child Is This?)をつぶやくように唄う。私は同じメロディの「牧場の我が家」(『西部開拓史』でデビー・レイノルズが何度も唄う歌)を思う。「御使いうたいて」も「牧場の我が家」も、日本では「グリーン・スリーブス」の曲名が一般的だが、でも、マクドーマンドは、牧場のあるデヴィッド・ストラザーンの家でも、赤ちゃんを抱いて、このメロディをハミングするのだ。私は、「牧場の我が家」(Home in the Meadow)を想起して、しかるべきじゃないかと思える。劇中でも、マクドーマンドと姉との会話の中で、「開拓者」(the pioneers)という言葉が出て来るが、多くのノマドの精神性は、開拓者の末裔であり、『捜索者』(The Searchers)なのだ。
さて、ほとんどドキュメンタリーに近い撮影現場だと思われる作品であり、多くのカットはハンディ撮影だ。生活描写、食事は勿論、労働、清掃、洗濯、排泄などの描写が反復される。こういった日常生活のシーンも面白いが、マクドーマンドが訪れる、砂漠や峡谷、森林、川、海岸など、北米の自然の美しさが散りばめられ、全く飽きることなく見ることができる。アリゾナの砂漠の集会場所で、夕陽の光を画面奥にとらえ続けながら、延々と歩くマクドーマンドを横移動で撮ったショットは特筆すべきだろう。あるいは、バッドランズで、岩の沢山隆起した荒地の中を、ピョンピョンと跳ねながら散策するマクドーマンドもとてもいい。そして、川の中に全裸で、しかも仰向けで浮かぶマクドーマンド。このカットがあるとないとでは大違いだ。映画にどれだけ賭けているかが分かるカットだ。素晴らしい!
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