例えばダニーの彼氏であるクリスチャン、ジャック・レイナーが意識せずにはいられなくなるマヤという女性は、ダニーとは対照的なファッションモデル体型だ。旅行メンバの一人、多分一番女好きという設定のマーク、ウィル・ポールターは、冒頭近くのバーの場面で、クリスチャンに「ダニーと別れてセックスの好きな女に替えろ」という主旨の示唆をしている。男たちに交じって、女性として一人旅行に参加したダニーが、いずれ、性の対象にされる場面が用意されているのではないか、という予想を立てながら、見てしまうのだが、全くそんなことはないのである。神経症的でもあるが、さらに、ジェンダーステレオタイプな意味で、どこかセクシャルな魅力を欠いた、ダニーという女性が、あの手この手で造型されているのだ。

　さて、実は、開巻からアメリカの場面までの方が出来が良いと思った。冬の森。雪。女の歌声（スウェーデン語？）。森のカットが続く。オフで電話のコールがあり、住宅地の灯りのカットに繋ぐ。スウェーデンかと思ったが、こゝは米国なのか。ダニーが妹と連絡を取ろうとするが、繋がらない。神経症的なダニー。クリスチャンはバーで男友達と一緒にいる。ダニーからの電話に出ると。いきなり、泣き叫ぶ声。これには吃驚した。また、窓寄りの移動撮影と、時空をジャンプしての、窓からの後退移動のカット、というカッティングも冴える。この後、全編通じて（スウェーデンのシーンも含めて）、窓と鏡といった反射物の演出も見応えがある。例えば、夜のシーンの窓はほゞ鏡として機能させるといった演出等。

　ただし、後半の、旅行者たちが離脱・失踪してく部分はもっと映画的に恐ろしく描くべきではないか、と思った。また、ダニーが参加するダンス競技の描き方も、かなりヘンテコなのだが、ルールのいい加減さはどうでもいいが、回転運動をもっとスペクタクルな画面として造型して欲しかったと思う。