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[コメント] 帰れない二人(2018/中国=仏)

アバンタイトル。バスの中の乗客達。子供がいきなり刮目する。私達もつられて目を見開くが、そのまゝラストまで、目を瞠ったまゝになる映画だ。
ゑぎ

 本作の白眉、最も良いシーンは、チャオとビンを乗せた車が、オートバイの若者の集団に囲まれ、街頭で乱闘になった後、チャオが発砲する部分、ということで、おおかた異論はないと思われるが、同時にこゝは、本作の折り返し地点というか、ギアシフトするポイントでもある。それは端的には二人のキャラクターというか、心持ちが入れ替わるということだ。前半はビンが渡世人で、チャオは私は違う、と云うが、後半は、チャオが自分は渡世人だと云う。あるいは、後景に火山が見える、見晴らしの良い高台のシーンが二度あり、こゝも画面のスペクタクルという意味では大きな見せ場だが、一度目は、ビンがチャオに拳銃の扱いを教えるのに対して、二度目は、チャオがビンの歩行練習を手伝うのだ。手を広げて待つチャオ。この二度目の場面は、短いカットで簡潔に示されるだけだが、こ の後、ラストのビンの行動を示唆する重要な場面だろう。

 また、スペクタキュラーな画面、ということでは、中盤の、長江を船で移動する場面と、奉節の街の、坂や階段の多いロケーションが、とても見応えがある。あと、音楽の使い方も随所で心に響くが、「Y.M.C.A.」や「Cha Cha Cha」といったポップスの挿入だけでなく、ドラムなのか、ドン、ドンという音の反復に揺さぶられる。冒頭の山西省大同の空撮(ドローンっぽい)で既にこの音を聞くが、ラストカットでも、繰り返されるのだ。これにより、放りっぱなしのラストが、この帰結こそ映画として必然、という状態に昇華する。

(評価:★4)

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