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[コメント] 婦系図(1934/日)

本作を見た後に原作を読む。順番としては、三隅版、衣笠版、本作と先に映画を見た後に原作を読んだことになる。尚、マキノ版を未見なのが悔しい。いつか見ることが叶えばと思う。また、三隅版はずいぶん昔に見たので、ほとんど忘却の彼方にある。
ゑぎ

 さて、本作はかなり原作に忠実に作られているように思う。とは云っても、勿論、割愛されている場面も多々あるし、2つの場面を1つにまとめていたり、上手く舞台を変更して効率的なプロット展開にしている部分もある。例えば、本郷薬師の夜店での、早瀬と酒井先生のシーケンスの中に、スリ騒ぎを挿し込んでいる部分。原作でのスリ騒ぎは、夜店の場面ではなく、その後の、飯田町から浅草橋へ(早瀬が酒井に連れられて柳橋の待合へ行く途中)の電車の中のシーンとして描かれている。電車のシーンを用意するのは金がかり過ぎるだろうとは思う。

 本作はお蔦が田中絹代で早瀬が岡譲二。酒井先生は志賀靖郎で、その娘の妙子を大塚君代が演じている。田中も大塚も、美人というよりは、庶民的な愛嬌のある顔だと私には思える。酒井先生の志賀は、ずいぶんと偉そうな演技をすると思ったが、これも原作のキャラを再現しているというか、原作の方が、もっと厳しい科白が多いのだ。

 本作は2時間を超える尺で、ちょっと緩慢に感じられる部分がある。また、かなり「間」の長い演出がつけられている場面もある。湯島の境内のシーンが顕著で、田中絹代が科白無しで境内を行ったり来たりする。ただ、この「間」のリズムにも段々と慣れて来て、格調高く感じられてくる。あるいは、効果的な屋内での後退ドリー移動もいくつか見られ、これも、安定した画面造型だと感じられるし、手紙から本や、川面から神社の手水舎へ、といったマッチカットも、よく考えられている。

 また、お話としては、ほとんど全てのプロットを収束させている。放りっぱなしのキャラがないのも尺を取っている理由だ。スリの更生や、悪役で妙子にちょっかいを出す河野の改心、あるいは、お蔦が慕う芸妓の小芳と妙子の関係など、全て、丸く収めてしまう作劇は満足感がある。ただし、原作をかなり変更した上に、多くのキャラを放りっぱなしにしている衣笠版には、また違う魅力もあるわけで、どちらが好ましいかは、見る者によるだろう(私は衣笠版の山本富士子のお蔦には、決定的な破壊力があると考える)。

#備忘で、その他配役等を記述します。

・早瀬の家は飯田町。女中は大好きな飯田蝶子で、田中との掛け合いも見もの。なじみの魚屋「めの惣」は川村黎吉

・お蔦の姉さん芸妓、柳橋の小芳は吉川満子。同じ待合の芸妓で坪内美子

・早瀬の同郷の友人・河野は小林十九二。その媒酌人の坂田先生は宮島健一

・本郷薬師の夜店の店主で坂本武。酒井家の書生で三井秀男がワンシーンのみ。

・お蔦が髪を結う待合の女将は若水絹子

・スリ役は日守新一だ。けっこう見せ場があるのにノンクレジットだった。

・全体に場所の説明をしない。科白に、真砂町、本郷、飯田町が出てくるぐらい。新橋駅のシーンも駅名を見せたりしない。

(評価:★3)

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