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[コメント] ファントム・スレッド(2017/米)

単純に本作の舞台であるオートクチュールの世界の華やかさ、その絢爛たるスペクタキュラーだけでも見応えがある。特に、最初の顧客の描写、公爵夫人ヘンリエッタの場面で既に圧倒される。
ゑぎ

 しかし、あゝ本作も、階段の映画であり、ドアの映画だ。それは勿論、端的にはダニエル・デイ=ルイスの居所兼仕事場にある階段の描き方、雇い人の女性達(パターンナーやお針子達)を行き来させる、圧倒的な画面の面白さを指しているし、各部屋のドアの、境界線としての意味づけ、人(亡霊も!)を中に入れるかどうかといった峻別を厳格に意識させる演出を指していたりする。

 さらに、人物の視点の高低の描き方について云えば、階段を使ったシーンだけでなく、アルマ−ヴィッキー・クリープスを、箱の上(云わば小さな即席の階段)に乗せて、服を着せたり、採寸したりする別荘のシーンが出色の出来だ。この演出のねちっこさにはゾクゾクする。

 また、ダニエル・デイ=ルイスが運転する自動車(ブリストル40)のカットが悉くスリリングで、これもある種の異常な空間造型と云えるだろう。既に最初に別荘へ向かう車を後部から撮ったカットが尋常じゃないし、アルマを迎えに来る夜の場面の、Uターンのカットもそう。これら、自動車という装置の暴力性の強調は、ダニエル・デイ=ルイスの性格付けへ寄与にするにとどまらず、異空間の造型として強烈に機能する。

 このような、階段やドアや自動車といった装置の演出は、エンディングに向かって、二人の異様な関係性を深化させる、その感情を組織する。キノコのオムレツを食べさせる場面の二人の視線の演出が、直截的にスリルを感じさせる分かりやすいクライマックスの演出ではあるのだが、階段やドアや自動車も、ラストに向かって2人の関係性を収斂させる重要な要素なのだ。

 尚、ダニエル・デイ=ルイスの姉シリルを演じるレスリー・マンヴィルが流石にオスカーノミニーも納得の存在感だ。その冷たさと厳しさ、そして秘めたる優しさも滲み出る、凛とした佇まいが美しい。

(評価:★4)

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