[コメント] グランド・ブダペスト・ホテル(2013/英=独)
例によって横移動に加えてトラック前進、直角パンニング、ズーミングがこれでもかと云うほど繰り出される。ズーミングは素早いものなので嫌みじゃないし、これだけ視点が強制されるにもかゝわらず、余り説明的に感じさせない、という演出は見上げたものだと思うのだが、それでも特に直角パンニングには飽きる。
人物の映っていない空間−空ショットでもこれをやるのは、動的画面の創造を意図しているのかも知れないが、逆に動きの無さを強調するように思う。ただし、視点の強制はプロットを転がすための「理屈」へフォーカスするのではなく、即時的には概ね意味不明であることの良さはあり、尚且つスピーディで切れの良いカッティングがその予測不能の面白さを担保している。
或いは、シアーシャ・ローナン=アガサの存在が本作に清涼効果をもたらしていることは衆目の一致するところだと思うが、彼女の初出の直後、思わせぶりにその悲劇的終焉を匂わせるようなナレーションをかぶせておき、以降登場する度に観客をハラハラさせる。こういうあたりも、観客の「理屈」(或いは因果)への志向性を逆手に取るような、フック−わな−をかけた演出であり、手練れも極まってきたという感想を持つ。(とりあえず、シアーシャ・ローナンの最後を書くのは控えよう。)
尚、ストップモーションアニメーションを含めた華麗なテクニックの中で、クライマックスのウィレム・デフォーとの雪上の追跡シーンが文句なく楽しいけれど、こういうデジタルな部分はアイデア一発で今後も拡大再生できる部分のように思う。むしろ、タイトルになっているホテルの内装、ロビー等の美術装置の美しさこそ褒めるべきだろう。そういう観点に立てば、もっともっとこのホテルを装置として見せ切るべきではないか、という批判も成立するように思う。
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