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[コメント] 悪の法則(2013/米)

実は本作をどうしても見たいと思ったのはコーマック・マッカーシーのオリジナル脚本だったから。もちろん「映画の観客」にとっては脚本はそれほど重要なファクターじゃない、というのが私のスタンスだが、ときに、脚本家がやりたかったことを見てみたいと思う場合もある。
ゑぎ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 あゝこういうことをやりたかったのね。チーターをテキサスの草原で走らせたかったんだ。フェラーリのフロントガラスにキャメロン・ディアスを擦(こす)り付けさせたかったんだ(ちょっと日本語おかしい)。いやいい。実にいい!理屈っぽい科白は難点ではあるが、いろんな細部がとっても面白い。つまり映画的だと思う。

 さらに、本作の良い点はリドリー・スコットにとっても自分のやりたいことができているように思える点だ。私はリドリー・スコット作品における「もうどうしようもない未曾有の恐怖から、ひたすら逃げるしかない主人公」というモチーフが大好きだ。本作の主人公・カウンセラーはエイリアンを前にしたときのリプリーやレプリカント・ロイに対するデッカードと同じだ。メキシコの組織から身を隠し、愛する女を取り戻すすべもなく、ただ恐れ、涙を流すしかないのだ。

 もう少し細部にこだわって見ても、冒頭アバンタイトルのメキシコとの国境の見せ方(走るバイクを素早くパンニングしエルパソへの看板を見せる)に切れを感じるし、その後の白いカーテン、白いベッドシーツ。女の足裏、このあたりの触感も実に良く、既にこの冒頭でリドリー・スコットの好調ぶりを予感する。また、バキュームカーを巡る争奪戦も、道路での銃撃と奪還の後のバキュームカーの清掃シーンがとっても愉快なシーンになっているし、組織の襲撃でハビエル・バルデムが殺され、車の中からチーターが逃げるあたりの一連の描き方は実に良い調子だ。このあたりもリドリースコット健在を感じた。結局、一番満足したのは、マッカーシーらしさ以上にリドリー・スコット作品としても充実しているところなのだ。

 さて、本作のプロット展開の分かりにくさは、バキュームカーを巡る時間の描き方が未整理な点とブラッド・ピットの位置づけの描きこみ不足に多く原因があると思う。時間の感覚はもうフラッシュバックとフラッシュフォワードを駆使しているとでも思うしかないが、ブラッド・ピットがラストで標的となる展開は説明が足りな過ぎるだろう。ただ、途中からピットが首に器具を巻きつけられることを誰もが期待しながら見ることになる演出がほどこされており、予想通りではあるが、役者冥利に尽きる殺され方をするワケで、なんか爽快感があるのだ。

 また、ワンシーンだけメキシコ人の運び屋役で出てくるジョン・レイグザモのシーン(ドラム缶の中の死体!)や、ラストだけ登場する異様に存在感のある金融屋・ゴラン・ヴィシュニックの見せ方なんかはいかにも文学者がやりたそうな一部エピソードをワザと突出させるプロット構成で、このあたりも分かりにくさに繋がっているのだが、しかしこのエンディングはカッコいい。冒頭のチータの美しさを円環としてイメージさせる落ち着きの良いエンディングだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)ジョンケイ[*] IN4MATION[*] Orpheus G31[*] mal DSCH シーチキン[*]

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