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[コメント] グランド・マスター(2013/香港)

実は本作も『夢二』のテーマがかからないかとずっと思いながら見ていたのだが、今回は代わりに『それから』でした。でもこのチャン・ツィイーの少女時代の回想シーン、いいですね。この映画、概して東北部の場面がいいです。
ゑぎ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本作の舞台は佛山、東北部、香港のパートに分かれるが、前半の佛山では殆ど金楼という名の妓楼の中で話が進行する。こゝは芸妓達を中心とした衣装や美術の見どころ満載なのだが、例によってエスタブリッシング・ショット(場面全体を説明的に見せるショット)は使わず、人物のバストショットと顔のアップで攻めまくるので、少々お腹一杯になってくる。殺陣シーンも屋内で演じられるのだが、閉塞空間でのスリルを期待していると、やはり寄りのショットが多いこともあり、例えば肝心のトニー・レオンとチャン・ツィイーの対決シーンなど空間の見せ方がイマイチ上手くない。せっかく階段を使っても吃驚するような見せ方をしてくれないのだ。画面の緊張感は途切れないし、アクション自体はどれも見事なものなのだが。

 そんな中で東北部での雪の中の葬送シーンとなり、こゝは明らかなエスタブリッシング・ショットもあり、ホッとする。東北部は雪と氷の世界で、冷たさの感覚も良く出ている。そして雪の中、駅のホームでのチャン・ツィイーと敵役・マックス・チャンとの決闘シーンとなる。こゝがいい。決闘する二人の横を汽車が延々と走り、いつまでたっても通り過ぎないところが映画的だ。この映画、こゝから持ち直す。ラスト近くのツィイーとレオンの別れの場面も良く、ツィイーの「好きになるのは罪ではない。ただ好きなだけ。」みたいな科白がグッとくる。

 さて、何度も出てくる門や扉が閉まるイメージ、かんぬき等で閉ざされるイメージ、或いは、記念写真を撮るシーンからストップしてモノクロ写真になるという、これも閉じ込められる感覚が「不自由さ」や「束縛」という言葉を思わせる状況の隠喩となっている。全体に寄りのショットに強くこだわった画面作りも、「束縛される」という映画の感情に寄与する。そんな中で、イップ・マン=トニー・レオンだけが飛び抜けて自由なのだ。流派の統一だとか、継承だとかに汲汲とし滅び去っていく者たちの中にあって「カンフーには流派はない。縦か横か。」とうそぶき、強く逞しく生き残っていく。そういったイップ・マンの生き様、他者とのコントラストの部分をもっと上手く描いていれば、と思う。本作の失敗作らしさは、表面的にはチャン・チェン演じる「剃刀」の扱い、トニー・レオンとのカラミが欠落している、という納得感不足が大きな原因になっている。これは誰もが感じる欠点だろう。確かに失敗作かも知れない。しかし、プロットの過不足以上に画面のゴージャスさを楽しむ、という立場に立てば十分に楽しめる作品だ。私としては満足。

#尚、本作もウィリアム・チャンが美術装置・衣装デザインに加えて編集も担当 している。こんな役割分担は極めて珍しい。矢張り、カーウァイの映画の肝はウィリアム・チャンなのだろう。付け加えるならプラス梅林茂か。

#『それから』メイン・テーマの選択は森田芳光追悼の意味もあるのだろうか。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)死ぬまでシネマ[*] けにろん[*] ぽんしゅう[*]

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