コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 早春(1956/日)

戦後の小津には本当にハズレがない。この映画の演出の緊密度も並大抵なものじゃない。例えば麻雀シーン。高橋貞二須賀不二夫田中春男等を切り換えるカット割りなんかでも、もう魔法のような美しさを感じる。
ゑぎ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 池部良淡島千景の陰鬱さ(それはある種、毅然とした、意志の力を持った陰鬱さ)は『東京暮色』の有馬稲子へ繋がるものだ。こゝでは『東京暮色』と比べれば多少の明朗さが織り込まれているし、岸惠子の美しさ華やかさで中和されてはいるが、小津はこの時期、徹底して冷厳な眼差しで市井の人を描きたかったのだろう。

 一方で、小津の真の偉大さを感じるところは高橋貞二演じる「ノンちゃん」のキャラクタ造型だ。このなんとも云えない出鱈目なダメ男ぶりをこれだけ実存感を持って物語に調和させる度量。

 『東京暮色』に連なるということで云えば、あの映画で全編に亘って奏でられていた「サセレシア」という明るい音楽が、この『早春』でも池部良の友人の葬儀シーンで慎ましやかに流れている。暗いシーンで相反する軽やかな音楽を使うという方法論がこゝで試され、『東京暮色』へと結実するのだ。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (4 人)irodori chokobo[*] けにろん[*] TOMIMORI[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。