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[コメント] 麦秋(1951/日)

小津の中では『東京物語』と並ぶ完成度だろう。プロット構成や人物の深みの点でも画面のスペクタクルという点でも最も均整の取れた豊かな映画だ。 
ゑぎ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 戦争の傷跡、南方で行方不明のままの次男の存在が良いアクセントになっている。母親・東山千栄子が未だに復員を待っていることを告げるシーンの次のカットで空にはためく鯉のぼりが繋がれる部分は思わず嗚咽がこみあげる。或いは、佐野周二の曖昧な存在も面白い。恋愛沙汰として絡むわけではないが、原節子とも淡島千景とも微妙にエロティックな関係性が見え隠れする。人情の複雑さの表現ということでは、原節子が嫁に来ても良いと云っているという話を杉村春子から聞いた後の二本柳寛の表情の曖昧さも忘れがたい。

 また、高徳院の鎌倉大仏、原節子と三宅邦子が会話する砂浜(七里ヶ浜?)のカット、ラストの奈良の麦畑を横移動したカットなど視覚的な力強い画面造型だ。小津のカットの特徴はローアングル、フィクスであることは間違いではないが、溝口がシーケンスショットだけの演出家でないのと同様、小津もローアングル、フィクスだけの演出家ではないことがようく判る。『生れてはみたけれど』等でも小さなトラック移動のカットが随所に現れるが、この『麦秋』でも印象的な小さな移動撮影が思いの外多い。特に大和のお爺さん・高堂国典と一緒に観劇するシーンの後の、無人の劇場のカットとその直後の誰もいない家の中のカットが共に移動カットで繋がれる部分には驚愕してしまった。

(評価:★5)

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