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[コメント] 有りがたうさん(1936/日)

これも「終わらなければいい」と思いながら見る映画だ。本当にオンリー・ワンの映画ではないか。本作に似た映画が思い浮かばない、いやこのような演出をどうやれば創出することが出来るのだろう。短いディゾルブとフェードでどんどんカットを繋いでいくこのリズム感と幸福感の創造は空前絶後だ。
ゑぎ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 上原謙の「ありがとう!」の反復と道を譲ってくれる人達(動物達も!)を映したバスの主観ショット(バスが見たショットだ!)の反復も目を瞠る。しかしバスの後部バンパーへ小学生達が飛び乗り、飛び降り、停車中は離れた路傍で何もなかったかのようにしゃがんでおり、バスが走り出すと、やおら小学生達も走ってきてバスに飛び乗るという運動の反復部分なんて本当に奇跡のような演出を見た、という感慨を覚える。或いは、朝鮮人の道路工事労働者の女の扱いもいい。「ありがとさーん!」と叫びながらバスを追いかける部分を見せておいて、ほったらかしたまま、ワンシーン(峠の上での休憩シーン。こゝも素晴らしい)を挟んだ後にバスに追い付いてくる部分を見せる。もう唸ってしまう。

 そしてタイトルロールの上原謙以上に桑野通子が真の主人公としてプロットを転がすのだが、彼女がバスの中で度々後を向く、その様が実にいい。また登場人物全員が意図的に悠揚な台詞回しをディレクションされており、この独特な台詞回しも本作の他に類例をみない映画世界の創造に貢献している。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)ちわわ ぽんしゅう[*] 寒山拾得 TOMIMORI[*] づん[*] ジェリー[*]

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