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[コメント] タワーリング・インフェルノ(1974/米)

パニック・アクション映画としては、技術の発達した現代の映画には劣るかもしれない。けれど、細部まで行き届いた脚本の巧さが今でも名作として語り継がれる要因だろう。
mimiうさぎ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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おもちゃの様な配線ケーブルから発した火が、嘘っぽく広がっていた高層ビル。火が広がったなぁ。。。と思っていたら、有名無名の俳優達が惜しげもなく命を失う。そんな大雑把な流れの中に、キラリと光るエピソードがいい。

特に好きだったのが、壊れ行くビルの中で一際目立つ白いドレスのジェニファー・ジョーンズと失敗ばかりの詐欺師フレッド・アステアのエピソード。いの一番にエスカレータに乗り込んだジェニファーに、「なんだ?この利己的な女は!」と怒りを抱いたのは大間違い。彼女が真っ先に降りたのは、自分が助かりたいための行動ではなく、耳の聞こえない母を持った教え子の身を案じての事だったのだ。その判断力と行動力に脱帽。この「やられたぁ」感がとても心地いい。

そして、その知的な女性が愛した、詐欺師になりきれない詐欺師。

彼の嘘は彼女の前では通用しない。嘘を見抜かれ、そして、彼の本質も見抜かれる。優しくとても優しい男だと。この二人のロマンスが成就する事がこの悲劇的なドラマの救いであって欲しかった。けれど、炎は容赦なく襲う。熟年の恋も断ち切る恐ろしさ。

義理の父親を超えられない、凡才な婿養子のストーリー。妹を守ろうと成長する少年のストーリー。二大ビッグスターのかっこ良さの影に隠れてしまい、なかなかクローズ・アップされない、されないがそんなところまで行き届いた脚本の上手さが唯のお祭り映画としてではなく、名作として現代も残っているのではないかと思う。

冒頭、“全世界の消防士に捧げる”とあった。

身内に消防士がいる。彼から話を聞く現場は、想像を絶する人間のエゴの世界である。人は炎を見ると興奮するそうだ。火を見た当事者、火を見た見物者の興奮はピークに達し、「到着が遅い」と怒鳴りあい、つかみ合いの喧嘩にもなり兼ねない勢いだそうだ。その興奮は、何度も現場を経験した消防士たちをも飲み込む。

「火を消し止めないと」

同じ思いでありながら、人は醜い姿を晒し出すのだ。「現場では走るな」こう教えられている。火のエキスパートである彼らが興奮すれば、それに乗じて人々はパニックを起こすからだ。

この映画では比較的大人しく消防士が描かれていた。罵倒もしなければ、大声も張り上げない。唯もくもくと火に水を掛けている。この静かな消防士たちは、何度も修羅場を潜り抜けて来た者たちが持つ「冷静さ」の象徴ではないだろうか。

人の冒したおろかな過ちを、人が食い止める。時には命を掛けて。この映画は永遠に私たちの生活を守る消防士達への感謝の映画であるだろう。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (8 人)tredair mitsuyoshi324[*] Orpheus 荒馬大介 けにろん[*] アルシュ[*] シーチキン[*] ナム太郎[*]

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