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[コメント] コラテラル(2004/米)

脚本はグズグズ。だからこそトム・クルーズの存在感とマイケル・マンの職人芸が光りそれなりの作品に仕上がっています。
ごう

これは間違い無くマックス=ジェイミー・フォックスの映画だ。仮に自分が役者としてどっちの役を演りたいかと考えればこれはもう間違い無くマックスの方です。殺し屋役ってのは男の子には興味のある役柄ではあるのだけれど、この台本においてきちんと性格描写までなされていて演じ甲斐がある役は?と聞かれればぶっちぎりでマックス。そしてジェイミー・フォックスはそれを見事に演じきりました。

トム・クルーズがどういう気持ちでヴィンセントの役を選んだのかは分かる術も無いですが、少なくともヴィンセント役にトム・クルーズをキャスティングしたのは大正解。「仕事である」というお題目以外に何の背負っているものが見えない上に、その仕事に関してもとても完璧にこなしているとは思えない行動のヴィンセントにあれだけの存在感を与えられるのはスターでなければできないのですよ。芝居が上手い役者さんはそれこそ山ほどいるのでしょうが、芝居が上手いだけでは尚更脚本のあらが目立つだけの結果になる危険性があるわけです。もっともそのトム・クルーズをもってしても最初の殺人とタクシーのくだりは「これギャグ映画?」と思ってしまうほどハチャメチャな展開でしたが。

それにしてもマイケル・マン監督ってのはいい意味でこれといって画面に特徴の無い監督なのだなあと改めて思いました。実際の所彼の作品は漢汁溢れる作品が多いのですが、それはあくまで脚本の話で、撮影技法に関しては恐ろしいほどスタンダード。せいぜい思いつくのは『インサイダー』の時のザラついた画面くらいですが、それでも映像が役者を飲み込むことも無いし観客に違和感を感じさせる事もない。とは言えもちろん各シーンでの撮影が高いレベルで安定しているのは間違い無く、今回の作品に関しても夜景をきっちりと美しく画面に収めたり、クラブでのカメラの移動などはスムーズな事この上ないので見ている方としては安心して役者の演技と話自体に没頭できるのではないでしょうか。

きょうび意図的に70年代ニューシネマ的に画面をいじってみたり作品ごとに画質を変えてみたり、果ては飛行機から落とされるミサイル視点でカメラを動かしてみたりとあれやこれやの手法を映画監督は使ってきます。それはそれで映画の新たな方法論であり、それが時として作品にダイナミズムやインパクトを与えたりしている訳ですが、それでも映画の背骨は役者の芝居と台本だろうと思ってしまうオレにとってはマイケル・マン監督の存在はとても頼もしいものに見えてしまうのです。だからもう少し撮る作品を考えて欲しいなあと思ったりもします。

でもきっとこの人これからも漢汁溢れる映画を撮り続けるのだろうなあ。それはそれで大好きだけれども。

(評価:★3)

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