[コメント] どん底(1957/日)
ごくごく小さい時のかすかな記憶がある。迷い込んで入った細くうねった小道沿いの貧民層の家々・・・聞こえてくる怒鳴り声。。チラッと見た家人の恐ろしい形相。。。 成人になる前に、幼少の記憶を辿ってあの街あたりを行ってみたら、影も形もなかった。どぶ川があったし狭い道だったのに、きれいに整備された水流と建替えられた家々。。
自分の実際に見た風景や、親の社会観の影響(祖父母は堂々と差別発言をやっていた)や幼少の頃に見たテレビの影響もあるのかも知れない。私はこの映画にとても懐かしく惹かれる。初めて見た映画の筈ですが・・・(ひょっとしたらTV映画で見たのだろうか?)
私の小さい頃は、とても貧しい子達がそこここにいた。そしてその子の親たちは怖かった。貧乏人はとても怒ってて怖かった。まるで別世界の人種のように思った。(自分の家がそれほど裕福ではなかったのに・・)
本作品に登場する人物の多くは、激昂型で大変なエネルギーを持って喋る。演劇的、または黒澤的とか言われればそうなんだけど、「貧乏人は怒鳴り散らす」或いは「不幸な人間ほど怒鳴り散らす」のが自分にとってはとても自然に感じた。
自分の知らない層の人間達はゴウゴウと吼える猛獣のように見えていた。近世時代に、極貧民層を置き身分制度をしいたのは、人間の業を利用した為政者の作戦なんだろうな、と思う。
また、金銭面云々ではなく、人生の大きな躓きの中で絶望を経験したりした今、この映画はとてつもなく私の心を打ちました。 金銭面であっても別の精神面であっても、人生の厳しさを経験し、絶望と友達になった自分には、心に染み入る映画だった。
登場人物のセリフの聞き取りにくさには困りましたが、彼らの顔そのものや表情やセリフすべてが面白かった。特に顔には吃驚しました。今の役者さんであのような顔が作れるものだろうか?素晴らしい造型だったと思う。
黒澤監督は、陽の人だと思っていましたし今でもそう思いますが、彼はもの凄いマグマのような絶望も持っていた人間なんだろうと思いました。
舞台が本来の場だと思える「どん底」ですが、このように緊張感高くやられてしまうと、参りましたね・・・
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