シリーズの中で、唯一ボンドが結婚するストーリー。トレイシーを真剣に愛する人間味溢れるボンドに好感を持ちました。ブロフェルド邸での諜報活動は、今観ると陳腐に見えますが、人間の感情を描いている部分は古さを感じさせません。ドラマ性は００７シリーズの中ではトップクラスだと思います。特に最後のトレイシーが殺されるシーンはショッキングで、テロップが流れ終わるまで画面の前から硬直して動けませんでした。まるでマフィア映画を観ているみたいです。

アクションのスキーチェイスは現在でも通用するくらいのド迫力もの。唯一、雪崩が資料映像だったと事だけが残念な点です。それにしてもブロフェルド邸からの脱出アクションはフイルム長回しで、充分に納得がいくまで楽しめました。こう言った当時ならではの新しいテイストを持ってきた先人の製作者達に高い点数を捧げます。

役者についてはボンドがジョージ・レーゼンビー では、それまで構築したショーン・コネリー版ボンドを根底から崩してしまう程イメージが違うので観ていて辛いものがありました。レイゼンビーでは線が細すぎる気がします。次作の『ダイアモンドは永遠に』でコネリーが復活するくらいなら、本作もコネリーがボンドを演じて欲しかったと思うのは僕だけでしょうか？本当に惜しい点です。

余談ですが、『ワールド・イズ・ノット・イナフ』は、「女王陛下の００７」のオマージュのような気がしてなりません。家訓、耳たぶ、スキー、ボンドガールの死などがイメージ的にダブります。個人的には両作品ともシリーズ化された映画に有りがちな”パターン化”と言う平凡さが無い良作だと思います。