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[コメント] キリング・ミー・ソフトリー(2002/英)

「映画の題材はどの世界でも普遍的なもの」(チェン・カイコー/AERA誌でのインタビュー)。たしかだったのは、全編を貫く陳凱歌の作風と、それから……
かける

**ネタバレ注意**
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覇王別姫』が★5の私にとって、チェン・カイコーのハリウッド進出。そして、彼の作品が手軽に見られるようになる! ということはとにかく嬉しかった。

しかし、ハリウッド資本で舞台はイギリス。題材や内容も毛色がずいぶん違う……ということで、頭の中をなるべくリセット、といった心の準備をしてから鑑賞開始。

ロンドン、石造りの街並。その光と影をカメラは巧みに切り取っていく。 登場人物の心理描写とも相まって、その陰陽やコントラストはヒタヒタと観る者に迫り、緊張感をもたらす。そして、その映像が、その描写が、私のリセットをものともせず、これが陳凱歌作品でしかないことを強く訴えかける。そう、まさに「この感じ」! アリス(ヘザー・グラハム)とアダム(ジョセフ・ファィンズ)の間に絡み付く二人の視線……花道を行く(?)二人に、歌舞伎のように舞台に声をかけたくなる心持ち!!

ワクワク、ドキドキしながら、ストーリーの展開がもどかしく、じれったくなっていく。最初の10分で、もう彼の作品世界にどっぷりと引きずりこまれてしまった。

ところが……そこまでだったのだ。

ワクワクも、ドキドキも、開始直後の例の「ラブシーン」まで。私のテンションは、どうにもこうにもそこまでしか続かなかった。

残念なのだけれど、彼の出自が色濃く出てしまった作品だと思う。彼が言うほど、普遍性を持った描写はされておらず、良くも悪くも彼の個性そのものの映画だったと思う。

覇王別姫』ではオモテ目に出たその個性や作風が、今回は(というかハリウッド的、一般世界で公開される作品としては)ウラ目に出てしまった……そんな印象を持ってしまった。

前述したように、とにかく光と影の描写はすばらしい。中国の路地裏のあの陰影が、ロンドンの街並に再現されたかのような明と暗、陰と陽。そういった環境や人間心理の中の二面性というのは、確かに彼が言う「普遍性」を持つ命題で、人間にとっての「原罪的」な部分でもあると思う。

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しかし、アリスを襲ったひったくりを、アダムが追いつめ、暴行するシーン。あのバイオレンスはとにかく残酷。あの酷薄さはさすがの支那民族、といったところだろうか。あの暴行だけでもレイティングされるのでは……というのは感じ過ぎ? B級アクションのそれや、暴力描写が何かと話題になる北野武の見せ方とも、明らかに違う何かがそこにあったと思う。

そして、直接的な暴力描写でなかったとしても、ハードトレッキングで夜の山中にアリスを放置するアダム。こうなると、性的なロールプレイを通り越してサディズムそのものだ。あれではその後の山小屋のシーンが、あの程度で済んでしまったことが、かえって疑問に感じられてしまう。

描写の必然性としてそれが必要なのであれば、それは仕方が無い。しかし、もしアダムが本当に性的サディストだったとしたら、終盤で彼が見せる「やさしさ」は欺瞞でしかなく、ストーリーの中の人物描写としては破綻してしまう。

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そして、話題のラブシーンにしても、R18ということもあり色々と取りざたされているが、善し悪しはさておき、「それほどでも……」というのが正直なところだった。

中国ではそのときに服を脱ぐ習慣がまだ一般的ではなかったり、行為の様子も日本や欧米のそれとは多少様子が異なるそうだが、この作品の描写も、まるで全裸になっただけでお腹が一杯になってしまい、そこで筆が止まってしまったような中途半端さを感じてしまった。官能サスペンスであることを煽るよりは、本筋(サスペンス)をもうちょっと立てるべきだったのではないだろうか。

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しかしその本筋もどうにも中途半端。「中国には2時間ドラマって無いんだろうしさあ」と言いながら映画館を後にしていた人がいたが、同感。アダムの姉デボラ(ナターシャ・マケルホーン)は「実は犯人」といった雰囲気まみれで登場して、結局そのままクライマックスまで一本調子のキャラクターにままで、ヒネリもなんにも無し。最後の墓地での告白と対決は、サスペンス劇場おなじみの「岬の突端」のような「用意された結末」との印象も。

過剰な暴力と、舌足らずの官能。サスペンスの物足りなさ。映像描写が素晴らしい陳タッチだっただけに残念。ひたすら残念。

映像の語り口とタッチを加点して★3。そして、今後も陳監督が次作が楽しみな作り手であることには一点の曇りも無し。

それから、飼い猫の名前「Know it all」に★0.5つけたいところ。

(評価:★3)

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