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[コメント] 茄子 アンダルシアの夏(2003/日)

レーサーはレース中はレースにのみ集中し過去の故郷のことなど脳裏には浮かばないものだ。リアリズムを追求したレースシーンと、登場人物達のドラマを見事に表現上で分離したことが本作の成功点にある。
Kavalier

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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或いは、逆説的な言い方をすれば、ただ肉体の躍動という事象が存在しドラマはそれに付随することでしか存在しえないスポーツの根源的な在り方が、映画や小説や漫画という物語の中に放り込まれた時の、その本来の在り様の喪失、あるいはそこでの窮屈さ、これらの惨めな多量の先例を我々はすでに凡百と見てしまっているのだ。これが進展した最悪の例としては、競技スポーツまでもが、「感動」求める観客と、マスメディアの扇情性の中で、没感動ドラマ化してしまっている。この戯画化し衆愚化されてしまったスポーツとドラマの関係の中で、本作はその徹をまったく踏まない。監督は、スポーツとは何たるかを明確に分かっているし、それを映画で描くという時に派生しうる危険性も十分すぎるほど分かっていると想像することは本作を見ればそう難しいことではない。

そう、主人公のレーサー、ぺぺはただ勝利を目指し走ることしか考えない。自転車レースというスポーツの本質は、本作のアニメーションの圧倒的な表現力、それは実写表現ですら不可能かもしれない領域に踏み込んで描かれる。そして、そのぺぺたる人物を映画としての物語で描く為に、まったく別の視点からの語りでのパートとして、兄とその婚約者とのドラマが用意されているのだ。そして、本作において、このリアリスティクなスポーツパートとドラマパートは、本当に一瞬だけ交差する。それが、中盤の看板のシーンだ。この看板のシーンを持ちえたことで、本作はスポーツ映画として、最低限の原則をクリアし、クリアすることは限りなくスポーツ映画として傑作に近づいたと言ってもよいだろう。

(評価:★4)

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