[コメント] ミスティック・リバー(2003/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
巨匠・イーストウッドに恐れを知らぬ物言いを敢えてさせてもらうと、この映画の致命的な欠陥は、ジミーがデイブを「間違って」殺してしまったことだ。
「間違って」殺してしまうのでは、幼馴染だった彼らが忌まわしい事件によって永遠に引き裂かれてしまうというそもそもの設定に全く意味がなくなる。だから、ジミーはデイブを「敢えて」殺さねばならなかったのだ。我ながら恐ろしいことを言っているとは思うが、幼い頃忌まわしい事件によって引き裂かれた二人が、再び忌まわしい事件によって引き寄せられ、あのような形で向き合ったときに起こるぶつかり合いが、ただの一方的な間違いによる殺しであっては、この映画は「不幸な偶然って悲しいね。そして、その当事者二人が少年時代にあんなトラウマを抱えていたなんて、より一層悲しいことだろう?」と言っているに過ぎないではないか。
巷で言われているように、ジミーが現在のアメリカのメタファであるならば、確かにあの殺しは「間違い」でなければならないが、そのような暗喩を盛り込むことは、彼らが幼馴染であったことや、過去の忌まわしい事件、つまりこの物語の肝である事柄をないがしろにし、主題をぶれさせる行為でしかない。
このクライマックスが象徴するとおり、『ミスティック・リバー』において少年たちに刻まれるトラウマは、映画を成立させるためのひとつのモチーフに過ぎない。わたしがこの映画を受け容れられないのはそこだ。ジミーやショーンは度々「あのとき自分(たち)が連れ去られていたら…」という悔恨まじりの仮定を口にするが、それは台詞として発話されるだけで、デイブ以外の二人にとってあの「事件」とは何だったのか、具体的には一向に描かれない。
だから、わたしはこの映画に唾を吐く。ヘンリーとジョージだけでなく、この映画そのものからも弄ばれ、そのためだけに心を潰され、殺されたデイブのために。
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