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[コメント] 南の島に雪が降る(1961/日)

「芸がある」ことの幸せをこれほどまでに強く感じられる状況は無い。
緑雨

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







戦場とは地獄のような場所であり、軍隊とは一切の妥協と息抜きの許されないところだという先入観からしてみると、演芸分隊などというものが成立したことに対する新鮮な驚きを感じる。もちろんそれは甘い感傷を意味するものではない。演芸分隊が無ければ一切の娯楽は存在しなかったと言うことであり、やはりそこは生き地獄であった。

書き割りの一つ一つに歓声をあげ、女形の衣装や化粧品の香りにかあちゃんを想い興奮し、落下傘と紙吹雪の雪に故郷をみて涙する兵士たち。枯れ果てそうな食料、限られた物資という厳しい条件下、少しでも良いものを観せようと懸命に努力する演芸分隊の面々。加東と伴淳が「おれは絶対に生きて帰って一生役者をやるぞ」と決意を話し合う場面がとても印象的だ。

100分間という短い時間に話をまとめたこともあって、芝居作りの苦労や南海の戦場生活の過酷さを原作ほどに伝え切れていない面は仕方がない。一方で原作を読みながら頭に思い浮かべていた場面を眼前に形あるものとして見ることができたのはやはり嬉しい。特に、原作者である加東自身が出演していることから考えると実際のマノクヮリ歌舞伎座はこの映画のセットにかなり近いものだったのだろうと推測できる。原作を読みながら想像していたものよりもずっと立派だった。

(評価:★4)

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