この辺が整理されずに描かれていることは、この映画が作られた当時の世間一般の認識水準を反映していると云えるのだろう。一方で、この映画は、その混乱が紐解かれていく過程をデンゼル・ワシントンにより体現しているとも云うこともできるかもしれない。

トム・ハンクスが法律事務所を追われた直後の苦悩と怒りや、ワシントンが嫌っていたはずの同性愛者の弁護を引き受ける気になった過程をもっと丹念に描くという選択肢もあったはずだが、序盤のシークエンスを時間を飛ばしながら省略しつつスピーディに描く手法が採られている。これもまた成功ではないか。物語にあっという間に惹きこまれるし、法廷劇を中心に据えることで、直截的に感情に訴える勢いがやや削がれた一方で、ウェットに流れず静かな力強さが作品に生まれている。被告側弁護人メアリー・スティーンバージェンが嫌みのない完璧な敵役を演じていてなかなか佳い。