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[コメント] トゥルー・グリット(2010/米)

リメイク作ながら、充分に感じ取れるコーエン兄弟臭さ。各々登場人物の寓意たっぷりにカリカチュアライズされた性格は、ともすればマイナス要因としての性格づけにもなろうものの、描かれる人物像は軽重を問わず奇妙な存在感を伴い、ドラマ作りに大きく寄与する。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ヒロインの愛らしさの欠片もない冷淡さ、保安官の正義を感じ取れないアクのある胡散臭さ、用心棒の全く期待できない頼りなさ、そして敵役のどうしようもない小物感…これらのうち、いくつかはドラマのクライマックスに至り返上される性格なのだが、悪役の成敗(?)にまるでカタルシスはないどころか、ラストのクライマックスの位置にすらそのシーンは位置づけられないし、ヒロインは蛇に噛まれ片腕を失ったまま、その頑なな性格を崩さず成長する。

これは心温まる西部劇ロマンなんかじゃないことはこれで判るが、かといって何かを糾弾せずに終わらないニューシネマ西部劇とも違う(被差別者として登場する黒人や北米先住民を目下に見ることに、ヒロインをはじめ各々が躊躇することはない)。これは21世紀らしい西部劇だ。どんな思想にもブレることのない、こんな西部劇のありようには、自分はアメリカ映画の不滅を改めて感じ取るに至った。シラケの世代をも越えて、熱いものを恥ずかしくないカタチで提示してくれるこんな映画は、とても嬉しい。人間讃歌のような大仰なものではなく、誰もが英雄にはなり得ない不毛の荒野で、各々の意地を通そうとする欠陥人間たちの足掻きがいとおしいのだ。それは逆に戯画としての西部劇ともとれるけれども、流れ流れてどこかの瀬に引っかかったなり損ないの英雄への愛情表現のように自分はとった。

人間は、今でも河を流されつつ泳いでいるふりをしているカッコつけだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (10 人)irodori DSCH おーい粗茶[*] まー chokobo[*] ぱーこ[*] けにろん[*] 3819695[*] セント[*] 緑雨[*]

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