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[コメント] グラン・トリノ(2008/米)

アメリカ男児としての掛け替えのない誇りとプライドこそが、老いたる保守主義者イーストウッドの本質であり、懐古趣味というよりは彼の「偉大なるアメリカ人」としての矜持がこのフィルムを回させ続けたのは、ほぼ間違いないところだろう。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この映画は意外なまでにシンプルな構造である。妻亡き後子供をも信ぜず、妻から信頼されていた神父にも冷たく、まして鬱陶しいだけの外国移民には近寄ることも許さなかったゴーイング・マイウェイの老人が、プライドの問題から思いがけなく外国人家族に心を開き、少年に自分の信じたもの、アメリカ人ならば担っていなければいけないことを伝えてゆく…そんな話だ。

これを観て感じたことは、これは自分は最後まで愛国者だ、というイーストウッドの信念であり、もしかしたら遺作になるかもしれない本作に込められた若きアメリカ少年たちへのメッセージだということだ。異民族との融和を図り、そして殺し合いの連続を自らの手で断ち切る人生の教師としての彼の存在は完璧である。皆殺しの螺旋の中に取り込まれていたマカロニ・ウェスタンの英雄はそこにはいない。人殺しの勲章を誇るな。法のもとに平等である全ての人々と手を携えよ。そう語り、言葉どおりタバコの火をつける道具だけで愚連隊どもに立ち向かったイーストウッドは、アウトローとならずして仲間たちの復讐を果たした。見事としか言いようがない。

それゆえに、日本人である自分は、このアメリカ人によるアメリカ人のための映画から不快感を感じ取ることはなかった。彼はもともとアジテーターではないし、もうすぐそこに迫っている死というものを見据えてイーストウッドが主張したいのが、「世界に冠たる国家の一員として誇るべき行動を為せ」という、究めて彼にとっては切実な願いだったことは健康な考えだと感じるからだ。グローバルな哲学を滔滔と唱えるほど彼は巨視的ではない。最後の言葉は息子へのプライベートな伝言であってもいいではないか。

イーストウッドが次回作を発表できるかは神のみぞ知るところだが、もはやそれに対してどうこう文句をつけようという気はない。暖かい目で見守ってやりたいとさえ思う。 彼は充分に映画界に対して貢献してきた。後は彼の好きなようにやらせてもいいだろう。そんな感慨がある。

余談。アーニー・ハーには今後活躍を期待したい。明朗な演技が印象に残った。

(評価:★4)

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