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[コメント] 腑抜けども、悲しみの愛を見せろ(2007/日)

田舎の真ん中に突如出現した、突然変異体的家族。それは本人達が思っているより演劇的であり、漫画的でもあり、つまりは東京という都市のカリカチュアとして最も相応しい形態をとっている。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







姉はナルシシズムの肥大した女優のなり損ないである。兄と兄嫁は彼女という怪物に振り回され、何度も地獄を見る。両親も彼女が殺したかのごとく映るその凶暴性は、田舎という微温的な空間よりは激しく東京のステージを欲する。

しかし、傍らに妹というそれ以上の怪物が息づいている。彼女は苛めの限りを尽くされても姉を恨んでも呪ってもいない。むしろ限りなく「面白く」思い、それをホラー漫画の主人公とするのだ。彼女らが住んでいるのは東京の飛び地だ。その回りは田園地帯のような形態を持つ一面の廃墟だ。姉はそこから逃げ出すことを夢見つつ、幻想の田舎から這い出られずに泥沼に沈んでゆく。それをあざ笑いながら彼女を食い物にして、東京へと「当然のように帰ってゆく」妹。姉は妹の寄生虫に成り下がる。

これは吐き気を催すような逆転劇に見えて、異様に乾ききった物語だ。愛などという田舎臭い感情が完全に死に絶えた「東京の飛び地」には、無垢で「明るい」兄嫁だけが残される。もともとの姉妹の故郷たる乾いた大都会へと二人は揺られてゆく。クリエイターと、その醜悪なミューズとして。無間地獄のような作品だが、意外に後味は苦くはなかった。もともと姉妹達は愛など必要とせず、身を削って命の糧に代える「幸せ」のみを信じて生きてゆくことを予感させる怪異譚だったのだから。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)sawa:38[*] 死ぬまでシネマ[*] TOMIMORI[*] デナ シーチキン[*]

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