[コメント] どろろ(2007/日)
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なんといっても、ミスキャストの前評判が高かった柴咲コウのどろろが何と生き生きと躍動していること!これまでの作品のせせこましさを明らかに振り返らせる天衣無縫ぶりだ。妻夫木百鬼丸の緩急の使い分けの自然さも、いかに今までの監督たちが彼をダメなほうへ、ダメなほうへ追いやっていたかを如実に示している。中井貴一の上手さについては今更語るべくもあるまい、彼はまだまだカッコいいオトナが演じられる。その他、この手のコミック実写化作品としては無類の芸達者たちの演技合戦には息を呑むばかりだ。そしてアクションをチン・シウトンに任せたのは正解。この手の作品では日本映画に類を見ない新機軸が齎されていると言えるだろう。
だが、ニュージーランドの大自然の利用に資金を取られすぎたか、エキストラの人数のあまりの少なさにガックリしたことも付け加えねばなるまい。せっかく無国籍にしたのだから、日本規模のトーナメント的合戦風景を一気に打ち破る戦乱シーンも望まれたところだ。「風景で驚かす」ということを最近の日本映画は忘れている気がしてならないのだが…。ラストの海に臨むシーンがパノラマ的長回しだったら、さぞかし素敵だったことだろう。
人間描写については、手塚原作のメッセージが生かされていないとはいえ、重箱の隅をつついても仕様があるまい。おとなしく演技陣のフォローを楽しむのが吉だろう。中井、瑛太、原田の善悪のアンビバレンツはそれなりに楽しめる。そして、泣かせのラブシーンと見せかけて柴咲が妻夫木の股間を蹴飛ばすシーンなど、大いに裏切られて痛快だった。この手のシーンが生きているということは、所詮原作はコミックであること(すなわち、大衆の側にある娯楽であること!)をスタッフが理解していることが如実に現われていて嬉しかった。そしてさすがに、これだけの密度ある物語を2時間半に押し込むのは無理だと悟ったのか、妖怪の全てが退治されるわけではない。ダイジェスト的性格も無きにしも非ずだが、自分はこれでいいと思っている。(もっとも、権力と簡単に和解したのは戴けないところなのだけれど。これも保守の時代の反映か?)こういった性格の作品を馬鹿にせずに撮ってくれるスタッフの出現に、素直に感謝したい。
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