コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 涙そうそう(2006/日)

潔癖症な青年・妻夫木はセックスレスの生活に耐えることは苦にもならず、彼女と妹のどちらかを選ぶためはさみうちになることもない。それもひとつの生き方だが、ドラマの主人公としては盛り上がらないことおびただしい。(付記)沖縄はこんな物語が通用する桃源郷だと思い込んでいる人に。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







少なくとも、こんな淡白な青年をヒーローにしちゃいけないだろう。

妻夫木は世間の風に抗うことを知らないのか、麻生の父が娘と別れてくれ、という意味をこめて彼の借金を肩代わりしにきた時も、それをはねのけるものの、あえて麻生との恋を貫こうとはしない。そうなると当然、長澤の貞操が危ぶまれるのが普通なのだが、彼は幼き日に誓ったとおりに、「にーにー」としての責任を全うし、その結果妹のために斃れる道を選ぶ。見上げた根性ではあるが、『みゆき』や『くりいむレモン』(両方とも嫌いだが)のような展開を期待するのが人情ではないだろうか。今は21世紀なんですよ、『若大将』の時代じゃないんですよ…とでも言いたくなる。ふたりの間に募る劣情を押し殺す描写すらないものだから、一人暮らししろと長澤に告げる妻夫木は非人情な兄貴としか見えないし、嵐の夜の事件のあげく倒れた兄にも泣けない。

というか、この映画、どこで泣けたものか判らない。劇場の女の子が「エンドクレジットの後も映像があるので席を立たないでくださいね」と微笑んだので言った通りにしたのだが、妻夫木が長澤を「女」として見ないきっかけが映されたのみだった。

ほんとうに、この映画を観て鼻先をつまみ涙をこらえた方は、何に泣かされたのか教えてほしいものだ。

追記。沖縄を歴史に取り残された桃源郷だと信じ込む人があるようだが、はっきり言って度し難い歴史認識の甘さと差別意識がそこからは臭ってくる。せめて今もなお米軍基地が残る元激戦地であり、不心得者の米兵が時折島民の女性相手に暴行事件を起こす場所だ、くらいのことは知ってください。沖縄は現代の矛盾を抱え込んだ、現実の日本の一部なのですよ。

(評価:★2)

投票

このコメントを気に入った人達 (3 人)お珠虫[*] 直人[*] Myurakz[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。