コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 変身(2002/露)

グロテスク・ビューティの漸次的な消滅。今時の若者なら『ザ・フライ』を通り越して、『スパイダーマン』の物真似を演じていると見るような現代のグレーゴル・ザムザは、衰弱することでその「愛らしさ」を減じてゆく。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







彼、エフゲニー・ミローノフを見て、さも可愛いというかのように、あの昆虫的演技を語っている女性観客がいた。さもありなんである。醜悪さと愛らしさの中道をゆくようなキャラクターが現代にはあふれている。ましてミローノフはちょっとした色男だ。彼が演じる昆虫は、大袈裟にスローモーションで家族たちが恐れる対象とは裏腹に、むしろコミカルに見える。「かぶと虫ちゃん」をSMAPの誰かが演じているのを想像すれば、大体判り易いだろう。

だが、彼は周囲の誰もに忌み嫌われ、ひどく衰弱して死んでゆく。皮肉なことに、ここで見えてくるのは昆虫ではなく、哀れな一個の人間の姿だ。彼は衰弱することで、仮面を剥ぎ取られ人間に立ち返る。家族たちが得る希望と引き換えに。

そんなわけで、実存主義的な不安感をこの映画の観客が感じとるとすれば、おそらく見終えた後ではないだろうか。それほどに、あのミローノフの演技は「昆虫道化」として傑出していたのだ。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。