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[コメント] ゴジラ FINAL WARS(2004/日)

「マグロばっかり食ってやがった」あいつをヘコましてやるために。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







観た直後はべつだん悪い映画とは思っていなかった。いや、スピーディーな展開はシリーズに例を見ないものであった。そしてマニア心をくすぐる単語が羅列されるのだ。地球防衛軍。海底軍艦。妖星ゴラス。X星人。波川。グレン。小美人。12000年前。その他、この文章をご覧になっている皆さんにもお馴染みの怪獣いろいろ。展開は『怪獣総進撃』。そして数々のオマージュ。スターウォーズ。インデペンデンス・デイ。マトリックス、あるいはHERO。宇宙からのメッセージ…最後のほうはちょいとあやしいが、見せ場がテンコ盛りだ。しかし、印象に残るドラマが、セリフがない。無残に自分の脳から吹き飛んでいってしまう。まして、前述の単語にこころ踊らない一般人観客はどう感じただろうか。(事実、途中で席を立つ観客が散見された)

はっきり言ってしまえば、これはマニア受け要素を全面に押し出したあげく、ドラマが犠牲になっている映画なのだ。そして監督は人間のアクションはおろか、怪獣のアクションまでにも秒殺演出を行なってしまう。だからこれだけ沢山の怪獣が出演しているというのに、実に勿体無い使い方をされている(新しい演出のもとのクモンガ、ビル街を切り裂き夜空に咆哮するラドン、アルマジロ状に変形するスピーディーなアンギラスは秀逸であっただけに)。ヘドラやキングシーサーのように、局地的にしか(あるいはその時代においてしか)出現し得ない怪獣はきれいに逃げている。このあたりに、スタッフ間のディスカッション不足が見える。強すぎるゴジラは、他者の存在感を確実に弱めている。

そして、今までの東宝怪獣映画と一線を画する「存在しない」要素がふたつある。自衛隊(べつに防衛軍でもいい)の蟷螂の斧たる大部隊の抗戦と、逃げ惑う一般人の描写だ。これに代わるのが数隻の空中戦艦と、ミュータント部隊の存在だ。これらが立派に代役を果たしているならともかく、ただそれ以外の人間はどうしているのかという疑問に結びつき、あっけない文明崩壊に唖然とさせられる。この説明不足を、親は子供に理解させてあげられるだろうか。

なにも趣味で揚げ足とりをしている訳ではない。怪獣や登場人物コスチュームのリデザインには文句をつけるファンも多かったが、自分はこれはこれで新鮮さを感じ、唸らされる部分も大であった。こうした若い人材の登用は積極的に為されるべきだと感じる。それだけに、この映画の「古き皮袋に新しき酒を盛る」というよりは、「好き勝手な遊びの免罪符として、マニアしか喜べない古い設定でデコレートする」といった制作態度を悲しむのである。『ゴジラ』が新しい監督の腕試しの場となっていた現状は、ハリウッドでいう『エイリアン』のようなジャンル自体の活性化をもたらしていた側面もあるだろう。だがファンに人気を誇る金子ゴジラさえ、自分は所詮仇花であったゆえに一般に受け入れられなかったと思っている。平成VSゴジラですら、行なわれたリセットは一回きりであった。21世紀・『ミレニアム』以後の子供たちが、ころころと変わるゴジラ怪獣の設定についてゆけないゆえに背を向けているのでなければいいのだが。

そういう意味で、この期に及んでさえハリウッドゴジラを卑しめて溜飲を下げる北村監督には、今はそんなことをしている場合ではなかろうと言いたくなる。それは自主映画ででもやるべき悪ふざけであって、やるべき事はもっと他にある。『エイリアン』に賭ける各監督の矜持を思うとき、邦画において「怪獣」を大真面目に撮れる監督がもっと増えてほしいと思わずにはいられないのだ。(そんなわけで、ドン・フライの”カッチョいい”マッチョ艦長ぶりも、北村一輝の失笑を誘う道化ぶりも、それはそれなりに楽しめたものの、黙殺せざるを得ないのは怪獣アクションとの乖離が否定できないからです。やはり、怪獣に対しては真摯に接する登場人物たちであって欲しいのは自分の偏狭な思い込みゆえです。悪しからず)

(評価:★2)

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