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[コメント] 突入せよ! 「あさま山荘」事件(2002/日)

寄りと手振れによる細かく荒々しいカット割は、マイケル・マンの『インサイダー』を思わせる。演出しているというより、原作者の佐々淳行に演出させられているという印象。
kiona

気になった点

●冒頭の県警と犯人達との銃撃戦、おや? と思ったが、実際当時はオートマティック拳銃を所持していた警官もいたそうだ。

●プロジェクトXによれば、クレーン車は報復を恐れて自社の名前を塗り潰していた。

●人質の女性(今も存命であることに配慮し、映画は仮名を用いていた)は犯人たちにより酷い暴行を受けていたという話だが、この映画はいっさいそこに触れていない。事件を問い直すなら、触れるべき箇所だと思ったのだが…

 実際に現場指揮官だった男がバックに付いたおかげで、映画は警察側の裏事情に深く切り込むことに成功している。終戦から30年近く経ち、飛び道具と人質相手にほとんど無効化していた組織の戦略と、醜態を演じる羽目になった内部事情が延々と綴られる。

 組織の冗談みたいな不手際が、ついに犠牲者を出す。

 原田眞人が描きたかったのは、つまるところここだったのだろう。スクリーンの向こうにしか戦場を知らない戦後の若者が紛いなりにも戦場を経験し、そして戦死した。同じ日本の若者たる君達よ! どう思う?

 重要なのは、原田が原作に対し極めて良心的と言える仕事をしたことで、当然、原作者の意図するところも生き残ったということだ。

 ただ、警察のプロパガンダという見方は正しくない。警察からしてみれば、ここまで克明に不手際を描かれたのでは、特に長野県警は立場がない。利点があるとすれば、警察官の苦労を、とりわけ殉職した警官の悲哀を以て最大限に強調してもらうこと以外にないだろう。この不祥事続きの情勢下ではありがたいことかもしれないが、組織にとっては別にあってもなくてもいいことだ。佐々淳行の狙いは、危機管理意識の甘さに対する警鐘にあるのだろう。情熱の言葉として美しく聞こえるように語られた“日本のFBI”という言葉がまさにその象徴だ。それに原田がどういったモチベーションで応えようとしたのかはわからない。

 この事件は有名だし、キャッチ―だし、人質救出が果たせたから語り草に出来たが、人質が無事だったのは運が大きい。現場は大変な苦労だったと思うが、警察側の対応が功を奏したからあの人質は助かったとは言い難い。もし人質が無事でなかったら、何がどうなったのか? そこにこそ、この事件を問う意義があると思う。

 一方でこの事件に関し、“そもそも勝ち戦だった”という意見もある。人質救出と殉職者が出たことを差し置いて考えた場合、あれだけの包囲網であれば、遅かれ早かれ攻め落として当然という意見だ。この前年に、警察はもっと痛々しい事件を経験している。三里塚闘争または成田闘争/新東京国際空港建設反対運動全盛の最中、1971年9月に起きた、諸派セクト混合ゲリラが機動隊を待ち伏せた事件がそれだが、そちらの方は表立って語られることが少ない。負け戦であり、ともすれば汚点にも映るからだ。

 わけても東峰十字路事件にあって、機動隊は三人の殉職者を出し、各々負傷しながら恐怖の死線を彷徨った。しかし、その逸話は今も日の目を見させてもらえない。隊員達が捕虜となり過激派に拷問を受ける傍らで、彼らを先導すべき大隊長は恐怖の余り、身を潜め、事が収束するのをただ待っていた…そんな幹部にあるまじき醜態が組織の汚点以外の何ものでもなかったからだ。

 日本と警察機構の危機管理を問うなら、内省すべきは『軽井沢』ではなく『成田』ではないか。ドキュメンタリーのテイストや作風を目指す作家さんたち、あるいは日本とその歴史を作品のモチーフに昇華したいと考えている作家さんたちなどは、まだ日の目を見ていない題材にこそスポットライトを当ててほしい。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (14 人)寒山拾得[*] おーい粗茶[*] ユキポン[*] uyo[*] ごう[*] ペペロンチーノ[*] 死ぬまでシネマ[*] 浅草12階の幽霊 甘崎庵[*] ハム[*] ジャイアント白田[*] 秦野さくら[*] べーたん ゆーこ and One thing

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