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[コメント] 現金に体を張れ(1956/米)

クライムサスペンスの方程式が形成された傑作にして、時間交錯という先鋭的手法までが実践されている実験作。絶えず実験を繰り返しつつ、同じ作品内で、その実験を完結させてきたキューブリックの原点。
kiona

 完全犯罪が絶対に成立しないのは、欠陥のない計画が存在しないからじゃない、欠陥のない実行者が存在しないからだ!…きかん坊達のせいで、だんだん悪い予感がしてくる、そんな主人公の焦燥と苛立ち、そして心臓の高鳴りが聞こえてくるような中盤からクライマックスは見事だし、絶望を載せて舞い上がる札束を脳天気なおばちゃんとワンちゃん越しに描くアイロニーには、キューブリックの早熟を痛感させられます。

 そういったシニカルで過剰な感情移入をしないクールなキューブリック演出はとても好きなのですが、しかし、そのクールネスは、本作において完璧だったと言えるでしょうか?貧弱夫と強欲女+無能な愛人が繰り広げる愛憎劇はお世辞にも質がいいとは言えないですし、何より気にくわなかったのは、バーテンの顛末です。彼は、前半にあって、唯一感情移入が許されるように描かれたキャラでした。そんな彼の死は、後半、滑稽にさえ見えるように描かれましたが、その他大勢と共に片付けたその描き方に一抹の疑問を感じます。運命の非情を表現していたというよりも、単に忘れられただけのような印象を受けたからです。そんなこんなで、キャラクターという一点に関しては、ちょっとちぐはぐだったように思います。

 総じて、『オーシャンズ11』がいかに子供だましであるかが解る代物ですが、でも、こういった過去の傑作が抜け目無くソフィストケイトされた『レザボア・ドッグス』や、ハイカラな『地下室のメロディー』の方が全然好きだというのが、正直なところです。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)Orpheus けにろん[*] tredair

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