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[コメント] 暴力脱獄(1967/米)

ルークは何から脱獄したかったのか?
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







たとえば、ルークは『カッコーの巣の上で』のマクマーフィーのように社会不適合の烙印を押されて“隔離されてきた”わけではない。客観的に見れば、やらんでもいいことをやって、入ってこんでもいいところにわざわざ入ってきたようなものだ。根っからの悪人でも無ければ、病んでいるわけでもない。むしろ能力もあり、人から好かれるタイプだ。“社会適合者”でいようと思えば、いられる人間である。

また、この収容所だが、『パピヨン』に出てきた収容所のように理由もなく投獄されたり、まったく人権を無視した劣悪な環境であったり、終身刑の絶望しかないというわけでは決してない。刑期は守られたはずだろうし、労働の義務を果たせば、娯楽さえ許されているし、署長以下、職員も比較的まっとうだった。彼らが囚人達に強要していたのは、たった二つ、規則と“職員>囚人”という絶対の不等号の遵守のみである。そもそも、刑務所の規則と刑務官が厳しく、ときに理不尽であるのは当たり前のことであって、そうでなけりゃみんな悪さして入ってくる。或いは、この映画、囚人を片っ端から良い奴として描いている(これが一番ありえないと思った)から、刑務官の危機感なんて全く伝わってこないが、連中にしてみれば、犯罪者の逃亡も蜂起も怖くて仕方がないはずだ。そこへもってきて、ルークがあんな真似を繰り返せば、撃ってしまうのも人情ではなかろうか?少なくとも、あのマッカーサー野郎に、体制の抑圧なんて御大層なものを見出す気にはなれない。

では、あらためて、ルークの脱獄の動機は何だったのだろう?母親の葬式に出ることができなかったこと?体の悪い母親がいるなら、安易にお縄を頂戴するような真似はしなけりゃいい。それにもかかわらず与太るルーク、与太らずにいられない自分自身が、ルークにとって脱獄したい牢獄だったのかも知れない。虚ろなるまま、場末の刑務所に収監されてきては、同じようにそんなところに甘んじているちっぽけな連中相手にちっぽけなアイデンティティーを獲得し、粋がる自分、そんなちっぽけな自分に本気で魅了される人の良い他の囚人たち。彼らに対し愛着と背中合わせの隔絶感を抱き、逃げ出したくなる。

成る程、マクマーフィーやパピヨンとは違う意味で、深いモチーフなのかも知れない。だが、モチーフの背景というか時代の空気を共有していない年代としては、ルークが虚ろとなり与太った背景の描写が皆無であれば、全てを汲み取ってやることなどできようはずもない。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)けにろん[*] jollyjoker ハム[*] 甘崎庵[*] ユウジ あき♪[*] tredair[*]

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