コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] モンスターズ 地球外生命体(2010/英)

視線がきちんと怪獣に収束する。心得ているな、と思った。
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







非エンタメ映画な演出も、もはや定番の国境格差ドキュメント風味も、他愛無いながらも丁寧な人物描写も、低予算と聞かされれば感心の雰囲気醸成だが、ジャンルに課された本懐においそれとは向き合えない試合運びに苛立ちがつのる。

特撮畑から聞こえていた不評は まったく理解できるもので、普通の映画であれば上手く運んでいるなという演出も、このジャンルでは「何を暇なことやっているんだ! 他にやることがいくらでもあるだろうが!!」と言われてしまっても仕方が無いのである。

ただ、私は、このラストをこそ評価する。たとえば、『スーパーエイト』や『ロサンゼルス決戦』は怪獣や宇宙人を出汁にそこそこエンタメして小さな人間ドラマで納得させようという小さな映画たちだった。

モンスターズ』は、まず金がないのでエンタメはしない。怪獣の大暴れではなく、怪獣が通ったあとの廃墟ばかりを見せる。人間ドラマは、つまんないカメラマンとつまんない社長令嬢のつまんない里帰りだ。

ただし、これは、彼らを見せたいのではなく、まちがいなく怪獣を見せたい映画ではある。主人公たちの目をとおして怪獣を見せるのが目的の映画だ。

クローバーフィールド』が何故残念かと言えば、終始怪獣に向いているべきはずの視線(カメラ)がいつしか怪獣を逸れて、どうでもいいもの(怪獣とは無関係の人間ドラマ)に行ってしまう本末転倒にある。

この映画の視線は、なかなか怪獣を直視しようとはしないのだが、最後の最後できちんと怪獣に収束する。しかも、そこで展開されるのが大暴れではなく、求愛と交尾という心憎い裏切り。心得ているな、と思った。

私は、純粋に怪獣が好きだ。巨大な彼らを想うと、色々なことが些細なことのように思えてくる。彼らを前にすると、人類ごときのちまい格差やそれをめぐる争いなど吹き飛んでしまう。彼らを見ることで、自分の身の程を知る。人類すべてをうつす巨大な鏡のような存在――そう思わせてくれるほどの巨大な怪獣が好きだ。

この映画でも、主人公たちは、最後に怪獣から目が離せなくなる。その存在、その生、その圧倒的な営みに向けた視線は、やがて自分たちに返ってくる。そして、彼女は、自身の本音を吐露する。人間から怪獣へ、そして怪獣から人間へ。私が思うところのひとつの理想的な構造を持った怪獣映画ではあった。

あるいは、なぜ、タコなのか? それも、よくある隠しつづけて最後に「何だよ、タコかよ…」ではなく、割と最初からタコぶりを見せてしまう。触手シーンを見るにつけ、ひょっとして『サンダ対ガイラ』の冒頭が好きすぎるだけなのかと冷や汗をかきかけたが、なるほど生物のリアリティへの帰着を目論んでいたのか。赤い発光が実によかった。安っぽくても創意工夫は胸をうつ。『E.T.』だってオリジナルはその心臓が赤い電球で表現されていたからこそ尊かったのだ。

それにしても、あんたがこれから臨もうとしているのは、格闘技で言えばUFC世界ヘビー級王座。そこいらのアレではない。やれんのか!

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (3 人) けにろん[*] がちお[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。