コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] カラフル(2010/日)

これは、作家一世一代の力作なのではないか。原恵一監督の映画は4本しか見ていないが、初めて“えぐられた”感を味わった。『河童のクゥ』を見た限りでは、この監督にそんなことを感じることは金輪際無いだろうと思っていた。
kiona

これまた個人的な話をするなら、自分にとっては、後半のひろかの告解から釣瓶打ちが始まる台詞によるメッセージの放射は全部いらない。“カラフル”が意味するところは、それ以前の描写から十二分に伝わってきた。ただ、台詞による説明が必要だろうと考えた作者の親切と裏返しの保険担保の感覚は理解するし、それがあったからといって、それらが説明するところのこの映画の心は疑う余地など無いものだと、私は考える。

なにしろ、この映画は丁寧だ。物語としても丁寧だ。必要な素材と調味料をあますところ無くそろえて、レシピを熟考し、それを忠実に実行している。

そうして表現されたテーマの本質は、“死”でもなければ、“生きろ”でもないと思う。それらは分かりやすい表紙であって、この映画が懇切丁寧に描いているのは、ディスコミュニケーションであり、温度あるいは湿度、誰か、彼、彼女、パパ、ママ、兄貴がそこにいることへの嫌悪感――そして、疎みながらもそれらに愛着を抱かずにいられない自分自身の感覚を受容することだと思う。

そう考えると、路面電車跡地めぐりシーンの、なんと神々しいこと!

ところで、この作品、ひとつ大きなギミックがある。

作品は真の一人称視点が貫徹されているが、それは、いったん死んで別人になってみたいな一人称と三人称を都合よく織り交ぜた、実にトリッキーな視点である。そして、作者は、どう考えても立派な大人で、真よりも、周囲のパパ、ママといった大人たちのほうにこそ近いに決まっている。

つまり、大人の事情を重々把握しながら、それを少年の視点からえぐってみせるというギミックが、この映画の根底にはあるのだ。私なんぞは、だんだん親の恐怖を感じ、かつては自分だった真たちがだんだん化け物に見えてきている今日この頃なので、非常に胸に詰まらされる演出だった。

ただ、まあ、若干信じがたかったと言うか、それは幻想と思ったのは、ひろかがちょっとピュアすぎるように思えた。そこまで無自覚なのか、と。

というか、無自覚ではない、ある程度汚濁を自覚した上での“売り”を行う少女を提示することこそ、本当の「カラフル」の提示なのではないかという気がするのです。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)ペンクロフ[*] 緑雨[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。