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[コメント] キル・ビル Vol.2(2004/米)

女と男と五点掌爆心拳。
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ザ・ブライド=ベアトリクス・キドー(ユマ・サーマン)はビル(デビッド・キャラダイン)を捨てた。男の愛に背いた。男はそれが許せなかった。だから、女を地獄に突き落とした。地獄から這い上がった女は復讐を開始した。果てに男に辿り着いた。二人は自らを打ち明け合った後、最後の殺し合いを始めた。そこで、女は初めて自らの懐刀を振るった。

ビル曰く「パイ・メイ(ゴードン・リュー)が決して伝授することのなかった」五点掌爆心拳を、ベアトリクスは伝授されていた。そのことを、ベアトリクスは、最愛のビルに対し、最愛する最中にも教えることがなかった。切ない――ここに二人の間の哀切が、女と男の間の断絶が集約されていた。臥所を供にし抱かれる間も決して明かすことのなかった女の懐刀が、ベアトリクスにとっては五点掌爆心拳だったのだ。

女の懐刀を、男は初めて目にし、二人の間の断絶を思い知った。だが、確かに女は男にそれを隠し通してきたが、女がそれを振るった相手は男だけだった。

自分はラブ・ストーリーがどんなものかは解らないが、『Kill Bill: Vol. 2』は紛れもなく「女と男を描いた映画」だと思った。

また、『レザボア・ドッグス』に産声をあげたタランティーノの「脳内暴力が産み出すサプライズ」が『Vol.1』を彩っていたものだとすれば、『Vol.2』を貫き通していたのは『ジャッキー・ブラウン』の核=「一見地味に見えるそれでいて実に豊かな感情の機微」……そして、それを請け負っていた最たる媒介が「五点掌爆心拳」だった。

そもそも世間一般では、「五点掌爆心拳」なるものは、エクスプロイテーション映画特有の取るに足らない嘘八百ということにしかならないのだろう。まして、アートフィルムが主に請け負っているかのように見える「感情の機微」みたいなものとは結び付くはずのないものなのであろう。だが、ああいった嘘八百にこそ「感情の機微」を見出してやまない奇特な映画ファンもいる。

この映画はとても小さく見えるが確かな偉業を成し遂げた。世界のメインストリームで、不特定の観客相手に、類い希なる「感情の機微」をエクスプロイテーション映画の嘘八百に堂々と込めて描いて見せた。クエンティン・タランティーノ――自分が最も敬愛する同時代の映画監督。

(評価:★5)

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